法科大学院 役割を明確にして改革を『西日本新聞』社説2013年5月24日付

『西日本新聞』社説2013年5月24日付

法科大学院 役割を明確にして改革を

 10校のうち9校の割合で定員割れ状態という。このままでは、その存在意義さえ問われかねない異常事態である。

 今春、学生を募集した法科大学院69校のうち、93%(昨年度比7ポイント増)の64校で入学者が定員を下回ったことが文部科学省の集計で分かった。

 姫路独協大が今年3月に廃止されるなど計5校はすでに学生の募集を停止している。東北学院大も2014年度以降の募集停止を決めるなど深刻な状況だ。

 欠員続出の背景には、新司法試験の合格率低迷や法曹(裁判官、検察官、弁護士)への就職先が広がらない事情などが挙げられる。各校は定員を昨年度より計約200人削減したが、志願者総数はこれを大幅に上回る約4500人もの減少となり、定員割れに拍車を掛けた。

 内実はもっと深刻だ。入学者総数は2698人にとどまって過去最低を更新し、ピークだった06年度の半数以下になっている。定員の充足率が100%だったのは京都大など5校で、40校は定員の充足率が50%に満たなかった。

 全体の充足率も63%で昨年度より7ポイント低下した。全校の3分の1に当たる23校は10人未満の入学者しかおらず、法科大学院の運営や教育の質を確保するのも困難な状況に陥っている。

 法科大学院は法曹養成の専門職大学院だ。受験技術優先の旧司法試験を重視した選抜から脱却し、学部段階での専門分野を問わず、幅広く人材を受け入れる教育機関として04年度に発足した。06年から始まった新司法試験の受験資格は原則、法科大学院修了者だけに与えられる。

 修了者の合格率は当初7~8割と想定されていたが、実際には3割にも満たない。民間企業や行政機関での需要も予想ほど増えていない。法科大学院を修了しなくても受験資格を取得できる予備試験も11年から始まった。これでは法科大学院から法曹希望者が離れていくのは自明の理であろう。

 では、どうしたらいいのか。法科大学院のあり方については、中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)の特別委員会が検討している。政府の法曹養成制度検討会議も中間提言で司法試験の合格者数を「年間3千人程度」とする政府計画の撤回を求め、問題を抱える法科大学院の補助金削減強化も求めている。

 もちろん、適正な定員管理や教育の質を向上させる必要は言うまでもない。だが、それだけでは不十分だ。重要なのは、法科大学院を単なる司法試験の「受験支援機関」にしないことである。

 現在の司法試験は、旧司法試験より科目が増えて受験生の負担が重くなっている。多様な人材を受け入れるため、科目削減も含めて試験内容や合格者決定の方法を抜本的に見直すべきだ。法曹資格取得後の継続教育として法科大学院を有効に活用することを考えてもいい。法曹養成全体の中で法科大学院の役割を明確に位置付け、改革を図っていくべきだ。

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