奨学金未返済増 学ぶ夢尊重へ改善急務『秋田魁新報』社説2013年5月11日付

『秋田魁新報』社説2013年5月11日付

奨学金未返済増 学ぶ夢尊重へ改善急務

 大学などを卒業後、奨学金を返済できず、延滞金が重い負担となるケースが増えている。学ぶ夢を実現させるための奨学金が生活を脅かすのはあまりに残念な事態だ。制度の在り方を見直し、改善すべき点の是正を急ぎたい。

 日本学生支援機構によると、大学生らに貸与している奨学金で期限を過ぎた未返済額は2011年度末で過去最高の約876億円に上った。返済が滞った場合に加算される延滞金は年利10%。その負担の重さに苦しむ未返済者が少なくない。

 11年度の未返済は約33万人で01年度の2倍近い。返済できない理由の多くは、就職難などを背景にした経済的な事情。卒業後に非正規労働に就いたり、リストラされたりして収入が不安定で返済がままならないという厳しい状況が浮かび上がる。

 文部科学省は昨年度から、卒業後の年収が300万円以下の場合に返済を猶予する奨学金を導入。さらに早ければ来年度から延滞金を5%程度に引き下げる方針。低所得層に配慮して負担軽減に動きだしていることは評価したい。

 ただ制度については厳しい意見も多い。延滞金減免の規定がありながら、基準が厳しいため適用されない場合があるという。また経済状況悪化の場合に返済を最大5年間猶予する制度は、延滞金が課せられていると利用できないとする声もあり、改善を急ぐ必要がある。

 奨学金について「返済するのが重い負担」というイメージを固定化させてはならない。「返済できなければ大変」だから「進学を断念」ということになりかねない。そんな事態はなんとしても避けるべきだ。

 下村博文文部科学相は先に、東京大などが進める秋入学への移行に合わせ、高校卒業から半年間の短期留学を希望する学生を対象とした公的な奨学金給付制度創設の考えを示した。一般の奨学金についても現在の返済型から、こうした給付型の奨学金へ転換することも視野に入れたい。

 利子付きにせよ、無利子にせよ、奨学金の大半は家計が厳しいために活用されるものだ。それだけに返済への不安を払拭(ふっしょく)するのは容易ではない。親を失い、厳しい家庭環境にある遺児らの場合はなおさらだろう。ためらわずに必要な奨学金を活用してもらうためには現在の返済型では限界がある。

 経済的格差が教育の格差に直結する社会は不幸といえよう。それでは当事者ばかりではなく社会全体の損失になる。そうした考えがもっと浸透すれば、給付型奨学金の整備などに対しても一層理解が深まっていくのではないか。

 社会全体で奨学金制度を支える仕組みを整えていくことが肝要だ。国だけではなく、自治体や民間の力も合わせて、未来を切り開いていく若者たちの学ぶ夢を尊重すべきだ。

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