再生医療推進法 産学官の連携強化を図りたい『読売新聞』社説2013年4月28日付

『読売新聞』社説2013年4月28日付

再生医療推進法 産学官の連携強化を図りたい

 病気やけがで傷ついた臓器を復元する再生医療の研究成果は、いち早く治療に役立てたい。新法は、そうした体制を整備する第一歩だ。

 再生医療推進法が参院本会議で全会一致により可決、成立した。iPS細胞(人工多能性幹細胞)などを使った治療を実用化するため、推進法は「再生医療を世界に先駆けて利用する機会を国民に提供する」と明記した。

 研究開発に関する基本方針策定や、大学などでの先進的な研究への助成を国の責務とした。

 政府は成長戦略の柱の一つに再生医療を掲げている。その実用化促進のための法的基盤が議員立法で整ったことを評価したい。

 再生医療は本来、患者本人の細胞や組織を使うため、臓器移植と違って拒絶反応の恐れがない。目の難病である加齢黄斑変性については、既に理化学研究所がiPS細胞で治療する臨床研究を厚生労働省に申請している。

 これ以外にも、交通事故による脊髄損傷や心臓病の治療など幅広い分野への応用が見込まれる。

 iPS細胞を作製した山中伸弥・京都大教授のノーベル賞受賞に象徴されるように、日本は基礎研究では世界のトップ水準だ。

 問題は、その成果を実際の治療に活用したくても、障害が多いことである。例えば、治療効果を調べる治験に費用や時間がかかり過ぎる。これでは、ベンチャー企業などが参入しようとしても開発意欲がそがれてしまうだろう。

 このため、推進法は、再生医療製品の早期承認や審査体制の整備をうたっている。事業への新規参入を促すため、「必要な税制上の措置を講じる」とも定めた。

 現行法での審査は、人体にとって異物である医薬品を主な対象にしている。人体の細胞を基にした再生医療製品には、新たな審査基準を設ける必要もあろう。

 再生医療を巡る海外の研究機関や企業との競争は激しい。実用化で後れを取らぬよう、具体策の検討を急ぐべきだ。

 推進法成立を機に、産学官の連携が進むことを期待したい。

 一方で、推進法が「国は安全性を確保し、生命倫理に対して配慮する」とクギを刺したのも当然である。国民が安心して再生医療の治療を受けられるようにしなければならない。

 厚労省は再生医療を規制する法案を今国会に提出する方針だ。アクセルである推進法と、ブレーキとなる規制法を適切に使い分ける法の運用が求められる。

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