就活解禁見直し/社会が求める人材の育成を『河北新報』社説2013年4月29日付

『河北新報』社説2013年4月29日付

就活解禁見直し/社会が求める人材の育成を

 意欲的に学ぶ環境が整い、社会に有用な人材が育つ。そんな大学改革につながる第一歩にしなければいけない。

 安倍晋三首相が大学生の就職活動の解禁時期の繰り下げを打ち出した。学業に専念し、多様な経験ができる下地を整えることで、グローバル社会で活躍できる人材を育てるのが目的だ。要請を受けた経済団体も受け入れを表明。現在大学2年生の就職活動から実施される。

 就職活動の長期化をめぐっては、以前から学業の妨げになっているとの指摘があり、見直しを歓迎したい。早期の活動開始が留学を妨げる背景の一つともされてきただけに、海外で学ぼうという学生が増える要因にもなり得よう。

 現在の就職活動は、解禁に当たる会社説明会などの開始時期が3年生の12月以降、筆記試験や面接などの選考が4年生の4月以降となっている。

 「採用選考に関する企業の倫理憲章」にのっとったルールで、経団連は首相の要請に従って憲章を見直し、解禁を3年生の3月以降に、選考を4年生の8月以降に遅らせる。

 ただ、経団連が定める憲章は法的拘束力がない「紳士協定」。以前の就職協定が、優秀な学生を早々と囲い込む企業の横行によって有名無実化し廃止された歴史がある。経済界には見直しの趣旨を十分理解した上でルールを徹底するよう強く求めておきたい。

 外資系企業などの動向も気掛かりだ。企業側に疑心暗鬼が生まれ足並みがそろわなければ、学生を無用な混乱に巻き込むことになってしまう。

 中小企業への影響も心配される。大手企業の選考が一段落した後に採用活動が本格化するため、大手の採用が遅くなればそれだけ中小と学生が互いを見極める期間が短くなる。

 民間の就職情報会社によると、ことしの就職活動では大企業を希望する学生の割合が6年ぶりに上昇した。卒業までに就職先を決めたいとはやる気持ちが、採用活動の開始が早い大手志願へと学生を駆り立てることも予想される。

 中小企業にとっては、これまで以上に情報提供の回路やインターンシップ(職業体験)の受け入れを増やすなどの努力が求められることになるだろう。

 今回の見直しが、本来の目的に沿った人材育成に結び付くかどうかは、何より大学の質的転換にかかっている。

 文部科学省は昨年、大学改革実行プランを作成し、大学に対して「主体的に考え行動できる人材」や「グローバル社会で活躍する人材」の育成を求めた。就職活動開始時期の見直しは、そのための環境整備の一環とも言えるが、解禁繰り下げで増えた時間を、学生が研究や勉学に充てるとは限らない。

 既存の知識の習得にとどまらず、社会が求める多様で高度な能力を身に付けられるようなカリキュラムの導入や、指導方法の工夫が迫られる。大学の質、力量が問われる局面だ。

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