(ニュースQ3)更迭の原子力規制庁官僚、教授に…反発の被災者も『朝日新聞 』2013年4月24日付

『朝日新聞 』2013年4月24日付

(ニュースQ3)更迭の原子力規制庁官僚、教授に…反発の被災者も

 ナスカの地上絵を新発見して注目を集める山形大学が実はこの春、ごたごたしている。情報漏出で原子力規制庁の審議官を更迭された名雪哲夫氏(54)が教授になったのがきっかけだ。何があったのか。

 ■山形大に赴任、重粒子線研究

 今月1日付で、名雪氏は山形大が医学部への導入を目指している「重粒子線がん治療施設」の設置準備室に配属された。学生には講義せず、重粒子線装置の研究開発にあたるという。

 名雪氏は原子力規制庁ナンバー3の審議官だった2月、日本原子力発電敦賀原発(福井県)の断層調査に関する報告書案を原電側へ漏出させ、更迭された。

 教授就任は、文部科学省が3月末に公表するまで学部長クラスもほとんど知らなかった。公募が原則の学部の教授ではなく、本部の専任教授だったからだ。大 学側は結城章夫学長(64)と理事5人らによる役員会で受け入れを決定。学内には「人格・識見に問題がある」「補助金の見返りではないか」と反発が広がっ た。

 ■出身の省から補助金10億円

 山形大学は6学部、学部生約7700人を擁し、東北では2番目の規模の国立大学だ。重粒子線がん治療は国の最先端医療で、山形大は2012年度補正予算 で文科省の補助金10億円を獲得。その研究に同省出身の名雪氏が当たる構図に、職員組合は「補助金交付と天下り官僚受け入れのあしき癒着構造」と批判す る。

 波紋は学外にも広がる。名雪氏は原子力規制庁のナンバー3でありながら、規制される側に情報を漏らしたことに、東京電力福島第一原発事故の被災者らは反 発。山形県内に避難した人らでつくる「福島原発被災者フォーラム山形・福島」は18日、「原発事故で暮らしを破壊された福島県人の心を土足で踏みにじる暴 挙」と、名雪氏の解任を結城学長に要求した。武田徹代表(72)は「受け入れられなければ、文科省に今回の人事の撤回を求める」。

 ■“天下り”学長「終わった問題」

 だが、文科省の元事務次官だった結城学長は意に介さない。現在2期目の結城学長自身、最初の学長選では「天下り」批判を浴びたが今回、「文科省に『放射 線安全規制に明るい人材がいないか』と打診し、紹介されたのが名雪氏だった」。また、ともに旧科学技術庁出身で「彼の能力も知識も知っている」という。

 情報漏出問題については「終わった問題だ」と言い切る。名雪氏は訓告処分を受けたが、人事記録に残る懲戒処分ではないことを挙げ、「彼が持つ能力なり知識なりを活用することがより大事だ」と主張する。

 文科省内からは「実際どうかは別にして、はた目には科技庁出身の後輩を自分の所で身を立てさせてやろうとしたと見られても仕方ない」との声も聞かれる。

 理事の一人によると、文科省から名雪氏を打診されて教授就任を決定するまで、役員会では大学のイメージダウンを心配する声も挙がったという。

 だが、重粒子線プロジェクトは原子力分野。「原子力ムラと言われる狭い世界で、代わる人材がいなかった」。理事はこう付け加えた。「学長はドライな人。名雪氏が成果を出せなければ、簡単に切りますよ」

 名雪氏にも大学側を通じて取材を申し込んだが、応じてもらえなかった。

 (伊東大治)

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