学生の奨学金 返済の重荷負わせるな『東京新聞』社説2013年4月12日付

『東京新聞』社説2013年4月12日付

学生の奨学金 返済の重荷負わせるな

 新学期を迎えた。希望に燃え、奨学金で大学生活を送る学生も多い。ところが、社会に出てから返済に窮する若者が増えている。高等教育が貧困を押し広げている形だ。奨学金制度を見直さねば。

 入試から大学卒業までの四年間にいくらかかるのか。全国大学生活協同組合連合会の試算が実態に近そうだ。昨年度の新入生の保護者に聞き取って見積もった。

 例えば、東京の国公立大に通うと、自宅生は五百四十五万円、下宿生は九百四十五万円。私立大となると、自宅生は七百二十四万円、下宿生は千百四十三万円に上る。

 デフレ不況が長引き、家計の収入は伸び悩んでいる。これほど多額の費用を賄うとなれば、奨学金に頼る学生が増えて当然だ。

 今や大学生の二人に一人は奨学生。有能であれば、ゆとりのない家計を助けて高等教育の機会を与え、可能性を伸ばす。それが奨学金制度の大きな狙いだ。

 奨学金の九割は貸与型だ。将来は返済を迫られる借金である。返済不要の給付型は個々の大学が成績優秀者に支給する程度だ。

 広く知られる貸与型は、国が資金を貸す日本学生支援機構の公的制度だ。大学奨学生の三人に一人が利用している。本年度予算案では百四十四万三千人の利用を想定している。

 無利子と年利3%を上限とする有利子がある。貸与条件が緩やかな有利子枠が七割を占める。

 仮に毎月十万円を四年間借りて年利3%で二十年間の月賦で返すとすると、返済額は約六百四十六万円。毎月約二万七千円を支払わねばならない。遅れると年利10%の割合で延滞金が加算される。

 収入の不安定な非正規の仕事に就いたり、就職に失敗したりすれば行き詰まる。返済遅れの人はすでに三十三万人を上回る。三カ月以上の滞納者の八割以上は年収三百万円に満たない。

 無論、借金は返さねばならないが、連帯保証人の親が年金を削ったり、消費者金融に手を出して多重債務に陥ったりする人がいる現実は厳しすぎる。

 欧米諸国では給付型の公的制度が目立つ。若者は社会の発展を担う貴重な人材であり、大学が無償の国もある。機構の制度は税金の投入が少なく、民間資金に頼るから給付型でなく貸与型になる。

 高等教育の受益者は学生ではなく、社会そのものだ。有利子から無利子へ、貸与型から給付型へとかじを切る機会だろう。

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