大学入試改革 今こそ机上論を超えて『毎日新聞』社説2013年1月21日付

『毎日新聞』社説2013年1月21日付

大学入試改革 今こそ机上論を超えて

 大学入試センター試験が19、20両日行われ、受験シーズンもたけなわとなった。例年変わらぬ光景だが、政権交代で与党に返り咲いた自民党が「大学入試の抜本的な改革」を公約に掲げている。「高校在学中に何度でも挑戦できる達成度テストの創設」である。

 高校生の学習到達具合を共通して測る。官邸に設けた教育再生実行会議で、まずこのテストの仕組みや、これを活用した大学入試の根本的なあり方について検討するという。

 知識量の判定に傾く大学入試を思考力などの重視に変えれば、高校、中学の授業も変わり、大学教育も質的に向上する。その必要は早くから指摘され、そしてなかなか手がつけられないできた積年の重大課題だ。今こそ机上論を超えた有意義な論議と改革の前進を求めたい。

 挙げられた達成度テスト案の具体像はこれからだが、フランスの大学入学資格試験であるバカロレアのような統一試験から、基礎的な学力の確認テストまでさまざまなかたちや利用法が考えられる。

 入試改革については、高度経済成長期には受験競争の過熱と難問・奇問などの改善が求められた。近年は「質の維持と転換」が眼目だ。

 学力低下や、志願者総数が総定員枠にほぼ収まるような「全入時代」到来で、事実上学力不問の“お手軽入試”が一部に現れた事情もある。しかし、それだけではない。

 進学後には、専門知識のほか論理的思考やコミュニケーション、討論の力など、グローバル化の中で不可欠な能力の育成が大学教育全般に求められるようになった。そうした力につながる入試が必要だ。

 また難関とされる大学の入試合格者でも、受験勉強漬けの直後に始まる大学教育に目標を見失い、動機付けができない学生が少なくない。

 大学のあり方をめぐってはさまざまな論点があるが、つまるところ入試と無縁ではあり得ない。

 例えば、前文部科学相の提起で大学設置認可の基準を見直す検討会が設けられた。また東京大学が9月入学構想を表明した。これらも入試のあり方、つまり受験者のどういう才能や適性を見て、どう伸ばすかという点を抜きにしては論じられない。

 一般に政策論議でしばしば気になるのは、以前から類似の提言が繰り返されていたり、別々の場で同テーマが論じられたりすることだ。

 高校と大学教育のつながりについても既に「高大接続テスト」の構想があり、また中央教育審議会では部会で高校教育の質や入試改善、大学との円滑な連携などを論じている。

 これらを総合した改革ビジョンにし、速やか、着実な歩を進めたい。

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