国力を高める(5) 多様な人材が革新と成長を生む『日本経済新聞』社説2013年1月7日付

『日本経済新聞』社説2013年1月7日付

国力を高める(5) 多様な人材が革新と成長を生む

 国籍や性別、年齢などにとらわれず、多様な人材を組織に集める「ダイバーシティー」が日本でも重視され始めている。

 日産自動車は社内の上位98のポストのうち48を外国人が占める。新型車の企画などの現場でも外国人はざらだ。スイスのネスレなどの欧米企業のように、国籍が多様で価値観や感性の異なる人材が協力して新しいものを生みだす。

外国人や女性が貢献

 たとえば人気車の小型多目的スポーツ車(SUV)「ジューク」。SUVらしい頑丈さとクーペの軽快さという相反する要素を融合したデザインは、英国の拠点の案をもとに日本で仕上げた。

 女性の視点も企業にとって貴重だ。ローソンはプライベートブランド(PB=自主企画)商品の試作品を女性社員が評価する。使い勝手の良い日用雑貨や健康志向の食品などの開発につなげている。

 人口が減るなかでも労働力の減少を抑え、経済の活力を損なわないためには、女性や高齢者の就業をもっと促さねばならない。

 政府の試算によれば2010年で6298万人の就業者数は20年に5937万人に落ち込むが、女性、高齢者や若者の就労を進めれば20年時点で6289万人と、10年並みの労働力を保てる。

 職歴や経歴の異なる人材を取り込む中途採用も多様性を高める。情報技術(IT)分野では外部から採った人材が斬新な発想で新規事業を伸ばしている例が多い。

 環境・エネルギー、医療関連などの成長分野を伸ばすうえでも、専門性のある中途採用者は重要な担い手になるだろう。

 日本社会は長らく、日本人の「男性」「新卒者」で組織を固めてきた。男性が家計を支え、女性は家事といった暗黙の分担があった。勤続年数に応じて賃金が上がる年功制では社員を生え抜きで固め、入社年次ごとにグループ分けする必要があり、そこから生まれたのが「新卒一括」採用だった。

 そうした人材の自前主義は同質で硬直的な組織を生む。グローバル化や技術革新の速さについていけない。人材の多様性を高めることは時代の要請だ。

 にもかかわらず、日本のダイバーシティーへの取り組みは欧米に比べ周回遅れだ。外国人の大学新卒者を採用し、日本で勤務してもらう企業は一部にとどまる。中途採用は広がりを欠き、働く女性の6割が出産を機に退職する状況はこの20年変わっていない。

 多様な人材を受け入れにくくしている仕組みや慣行を改める必要がある。まず、「あうんの呼吸」で動く日本の組織のカルチャーだ。企業が外国人や中途入社者に力を発揮させるには、どんな仕事をどこまでこなせば昇進や昇給につながるか、明確な説明が不可欠になる。世界では当たり前の人材マネジメントだ。

 今も根強い年功制を見直し、実力主義でポストや報酬を決めることも、外部から採った人材に活躍してもらうには避けられない。日本的な人事・処遇の改革をダイバーシティー経営では迫られる。

大学入試を変える時

 政府の後押しも要る。たとえば出産で退職した女性が就業しやすくするため、保育士の数などの国の基準を満たした認可保育所を増やす必要がある。規制緩和で企業が認可保育所を運営できるようになって10年あまりたつが、企業の参入を自治体が認める例はまだわずかだ。こうした裁量行政を国は許すべきでない。

 多様な資質や能力を持った人材を社会に送りだすために、均質性を重んじすぎる学校教育のあり方を見直す必要もある。そのなかでも重要な課題は大学入試の改革だろう。選抜のモノサシを変えればさまざまな学生に道を開くことができるし、高校以下の教育も変わらざるを得なくなる。

 1990年に始まった大学入試センター試験は、もっぱら受験知識をどれだけ身につけているかを問い、小数点刻みで受験生をふるい落とす役割を担ってきた。

 こうした選抜を続けていては本当に優れた能力は発掘できず、多様な人材をみすみすとり逃して「受験秀才」ばかりを社会に送り出していくことになる。センター試験の大学入学資格試験への転換や、大学ごとのもっと手間ひまをかけた選抜への改革を急がなければならない。それもダイバーシティーを実現する道筋になる。

 

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