2012秋田この1年 取材ノートから[大学不認可騒動]『秋田魁新報』2012年12月22日付

『秋田魁新報』2012年12月22日付

2012秋田この1年 取材ノートから[大学不認可騒動]

「田中流」受験生を翻弄 異例の政治判断で混乱

 今月18日、来春開学する秋田公立美術大の推薦入試と3年次編入試験の合格者が発表された。美術大の母体となる秋田公立美術工芸短大のキャンパス(秋田市新屋)に、合格者計37人の受験番号を掲示。編入試験に合格した美短2年の女子学生(20)は「自分の番号があってよかった」と笑顔を見せ、新たな学生生活に期待を膨らませた。

 秋田公立美術大の新設を祝う横断幕を歩道橋に掲げる住民有志。田中文科相の 1カ月半前の11月上旬は来春開学の見通しが立たず、美術大志望者に大きな動揺が広がっていた。田中真紀子文部科学相が突然、美術大の新設を「不認可」としたからだ。

 その後「不認可」から「再審査」、「認可」へと判断が二転三転。結局、文部科学省の大学設置・学校法人審議会の答申通り「認可」で決着した。とはいえ、1週間近くに及んだ「田中劇場」は志望者や大学関係者を振り回し、無用の混乱を招いた。「一連の騒動は何だったのか」。田中氏に翻弄(ほんろう)された人たちからは、ため息が漏れた。

 来春開学を目指す秋田市は今年3月、美術大の新設を文科省に申請。諮問を受けた審議会は、文科省の大学設置基準に沿って審査し、美術大を含む3大学の新設を認める答申を出した。ところが、田中氏は設置認可を厳格化する必要があるとして、待ったを掛けたのだ。

 大学の数が多過ぎるとの認識を示し、「大学の質が低下してきている」と主張。認可の在り方に一石を投じたと一定の評価を示す見方もあったが、3大学の新設とは切り離して検討するのが筋だった。理不尽な「問題提起」だったと言わざるを得ない。

 審議会の答申を覆して文科相が不認可とした例は過去30年に一度もなく、異例の政治判断だった。秋田市は「裁量権の範囲を逸脱しており、到底承服できない」(穂積志市長)と猛反発。他の2大学や国会からも批判の声が上がった。

 包囲網に屈する形で認可に転じた田中氏は「大学設置の在り方の見直しは、かなりの方が賛成していると分かった」と翻意の理由を説明した。だが、精いっぱいの強がりのようにも聞こえた。

 田中氏は11月下旬、大学設置認可の在り方を見直すため、有識者による検討会を設立したものの、16日投開票の衆院選で新潟5区に民主党公認で出馬し落選。民主党も政権から転落し、田中氏主導の「改革」は実現しないまま終わりを迎える。

大学不認可騒動

 田中真紀子文部科学相は11月2日、来春に予定していた秋田公立美術大、札幌保健医療大(札幌市)、岡崎女子大(愛知県岡崎市)の新設について「残念ながら認可するわけにはいかない」と発言した。大学側の反発を受け、6日に「新基準で再審査する」と表明。翌7日には「現行基準で新設を認める」と全面撤回に追い込まれた。

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