大学不認可騒動、田中大臣の発言チェック・検証『読売新聞』2012年11月21日付

『読売新聞』2012年11月21日付

大学不認可騒動、田中大臣の発言チェック・検証

 田中文部科学相が主導した大学設置審査制度を見直す検討会の初会合が21日夕、開かれる。大学不認可騒動で、田中氏がこき下ろした審査制度。発信力を買われた大臣の発言だけに、世間には共感する声も少なくない。ただ、田中氏の批判には誤解もうかがえる。大臣発言に沿って、制度の本来の意味を調べてみると――。

〈許可される前から、ビルが建ち、教授を確保している。これ、極めて不自然だと思う〉

 新設の審査を行っているのは、文科相の諮問機関「大学設置・学校法人審議会(設置審)」。委員は文科省令「大学設置基準」に照らして、実際の開校までに、研究室や教室の数、運動場の広さが確保されるかどうかも審査する。委員の一人は「ある程度建物ができていないと、基準を満たしているかを確認できない」と話す。実際に今年の審査でも、校舎が狭いことなどを理由に、6月の時点で1校が不認可とされた。

 こうした事情で、多くの新設大学は、正式申請の1年以上前から、文科省と相談した上で、校舎の建設を進める。別の委員は「認可後に建て始めても間に合わない。『事前に建てるな』というなら、審査期間をもっと延ばす必要がある」と話す。

〈設置認可は大臣の権限。設置の基準をクリアしているか判定するのが審議会で、答申を受けて判断するのが大臣の職能〉

 一見もっともだが、ある国立大関係者は「設置審は、大臣が独断で大学の新設を認可したり、不認可としたりすることがないようチェックする役割も果たす」と話し、「設置審の答申を覆すには相応の必然性が必要」と指摘する。政治家である大臣の裁量が自由だと、自分の選挙区の大学をひいきしたり、逆に特定の宗教的背景のある大学を排除したりする恐れがあるからだ。

〈設置審の会議は数か月に1回しか開かれていない。メンバーはほとんどが大学の総長・教授〉

 実際に、設置審が置く「大学設置」「学校法人」の2分科会の開催は年に数回だ。ただ、その下に専攻分野に応じた28の専門委員会などがあり、専門家約280人がカリキュラムや教員の質などを細かく検討している。ほかにも委員会はあるが、専門委だけでも計100回以上開かれ、分厚い書類の読み込みに時には朝から晩まで費やし、「委員の負担はかなり大きい」(文科省幹部)。

 ある委員は「我々は厳しく審査している」と怒り心頭。別の委員も「審査に納得がいかないなら、設置基準を変えればいい。大臣は無知」と憤る。

 なお、文科省によると、委員に大学人が多い理由は、「内容が専門的すぎて、ほかに任せられる人がいないため」という。

〈大学の乱立に歯止めをかけ、教育の質を向上したい。それが真意〉

 大学の数は確かに、短大からの改編が相次ぎ、20年前の1・5倍、約780校まで増えた。今年度は入学時に定員割れをした大学が約46%に上っている。

 文科省幹部は「最近の新設は、医療関係、福祉関係などが多く、いずれも短大、専門学校を高度化するケースばかり」と説明。時代のニーズにあったものを認めていると強調している。

 ただ、開設された大学のレベルを事後にチェックする仕組みが十分に機能せず、質の低下が起きたことは同省も認めている。(石井正博、朝来野祥子)

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