大学の質/向上図る改革に知恵尽くせ『河北新報』社説2012年11月23日付

『河北新報』社説2012年11月23日付

大学の質/向上図る改革に知恵尽くせ

 「大学の質」に厳しい視線が注がれている。皮肉にも大学の設置認可をめぐる田中真紀子文科相の迷走劇が目を向けさせた面もあるが、時代は大学当局に質重視の取り組みを要請する。

 鍛えられ、磨かれた学生の活躍なしに、成熟社会のあるべき姿をたぐり寄せることも、国際的な経済競争をはじめとする難しい時代を乗り切ることもできない。

 認可制度を見直すため議論を始めた有識者検討会議には、骨太の提言をまとめてほしい。

 「入るのは難しいが、出るのは容易」。大学に対するこんな見方も今は昔だ。私大の半数近くが定員割れする「大学全入時代」が到来。一部の難関大学を除けば入学の希望はかなう。

 日本の大学生の勉強時間は1日4.6時間(授業を含む)。総卒業単位を取得するには8時間程度は必要とされ、実態は半分に近い状況だ。出るのは相変わらず易しいままだ。

 大学の増加に全ての要因を求めるのは乱暴にすぎるが、質の維持、ましてや向上は危うい。実際、学生の数学力の心もとなさを示す調査結果もある。

 大学の質は端的に、研究・教育内容とその成果である学生の成長で測られる。大学の定員割れの現実と勉強不足の傾向は、不十分さを暗示する。

 生き残りを模索する私大などは時代の変化を取り込んだ斬新な学部・学科名をアピール、入学を誘う。ただ、看板を掛け替えただけでは効果は一時的で、根本的な解決になり得ない。

 伝統のある著名な大学ほど危機感が強く、貪欲に学ぶ姿勢を育む方策と加速する国際化を意識した教育改革を構想する。

 「秋入学への移行」を目指す東大は前段として「秋始業」を検討。海外留学やボランティアなどの活動ができる1年間の特別休学制度も打ち出した。

 筑波大は単位認定を緩和し、留年を気にせず留学できる仕組みを整え、横浜国大は入学直後の短期海外留学を計画する。早大は20年後のビジョンに学部生の2割削減を明示。グローバルリーダー育成のための教育体系の再構築を柱の一つに掲げる。

 海外留学を通じて学生の成長を促す一方、優秀な留学生を取り込み、その触媒効果を期待する。ただ、こうした大学は限られ、東大の秋入学コースに合格した海外学生の3割が入学を辞退する現実の壁もある。

 学生の意欲と能力を高める工夫が確かな道筋となる。佐賀大は学生の目標設定や学習活動を支援するシステムを導入し、新潟大は学習成果を可視化する仕組みを取り入れる計画だ。

 文科省の調査で「授業が退屈」と認めた学長が3割を超えた。予習・復習に生かせるシラバス(授業工程表)の充実を図るとともに、授業そのものの改革を急ぐべきだ。入試の在り方を抜本的に見直す必要もある。

 大学の量的拡大は高等教育の大衆化を通じて「民力」の引き上げに貢献した。約半数が学士の高学歴社会を迎えた今、国も質の充実に本腰を入れる時だ。

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