大学「不認可」騒動 せめて改革への弾みに『中国新聞』社説2012年11月9日付

『中国新聞』社説2012年11月9日付

大学「不認可」騒動 せめて改革への弾みに

 空騒ぎと言うほかない。田中真紀子文部科学相が、北海道や秋田、愛知両県で来春開学する公私立大3校にだしぬけの「不認可」を突き付けた揚げ句、その判断を覆した。

 前任の大臣が諮問した案件とはいえ、行政の継続性を損なっていいはずがない。最高学府の生殺与奪を握る認可権は伝家の宝刀といえる。そう安易に抜き払ってもらっては困る。

 過ちを自ら認めることなく言い繕い、文部官僚のせいにしたのもいかにも見苦しい。

 理不尽にも振り回された大学側や編入学の志望者たちは胸をなで下ろしていることだろう。何より田中氏本人がまず謝罪するべきではないか。

 3大学についていったん「不認可」とした、個々の理由については今もあやふやなままである。どうして烙印(らくいん)を押そうとしたのだろう。

 田中氏は記者会見で「大学が乱立」「教育の質を向上させたい」のが真意と説明している。かねて大なたをふるうチャンスをうかがっていたようだ。

 大学生年齢に当たる18~22歳人口は1990年代前半をピークに減り続けている。学力評価に重きを置かないAO入試や複数回入試による受験者掘り起こしで進学率こそ5割を超えるものの、この春は定員割れした私立大が半数近くに上った。

 これほど少子化が叫ばれていながら、大学の数はこの四半世紀で460から780に増加。2007年には全体で進学希望者が入学定員を下回る「大学全入時代」を迎えている。

 自民党政権時代の91年に中央教育審議会が、設置基準を大幅に緩和した影響が尾を引いている。この流れを変えたいのなら、やはり中教審に諮って結論を得るのが筋ではないか。

 定員割れが常態化したしわ寄せは当然ながら、経営に及ぶ。行き詰まった群馬県の学校法人に先月、解散命令が出されることが決まった。中国地方でも萩市の私立大が大量の留学生を不釣り合いなサテライト施設に在籍させていた実態が明るみに出ている。

 私立大に対する経常費補助金だけでも本年度は3200億円を超えている。納税者の感覚からすれば、たれ流しにしておくのは納得がいくまい。その点については田中氏も指摘している通りである。

 大学設置・学校法人審議会のメンバー構成に偏りがあることも浮き彫りとなった。3分の2以上を大学学長や理事、教授ら関係者が占める。こうした顔触れでは、「身内」審議とみられても仕方なかろう。

 認可通りにいかず経営破綻した実例については、利害を離れて検証し、教訓をその後の審議に反映させていく必要がある。審議会の改革も、それに向けた一歩と受け止めたい。

 6日の会見で田中氏は、今回の判断について「首相と官房長官に事前報告、相談済み」と明かしていた。世論の反発にあわて、支えきれなくなるようなものを政策と言えるだろうか。

 教育は国家百年の計といわれる。大学改革には真正面から、腰の据わった熟議が欠かせない。手法こそお粗末だったが、せっかくの問題提起である。田中氏の罷免をめぐる政局で論点が脇道にそれるとすれば、元も子もなくなる。

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