『読売新聞』社説2012年11月4日付
大学新設不認可 文科相の独断が混乱を招いた
理解に苦しむ判断である。
危惧していたことが起きてしまった。
田中文部科学相が、3大学の新設申請を不認可とした。文科相の諮問機関である大学設置・学校法人審議会が「新設を認可する」とした答申を独断で覆した。過去30年で初のケースという。
田中文科相は記者会見で、「大学はたくさん作られてきたが、教育の質自体が低下している」と述べ、現行の大学設置認可制度を見直す考えを明らかにした。
だが、なぜ、この3校の新設を認めないのか、という明確な理由は示さなかった。文科省は「大臣の政策的判断」と説明するが、政治主導をはき違えた、あまりに乱暴な判断と言うほかない。
そもそも、設置審の認可答申は、文科省が定めた大学設置基準などに基づいて、3校の教育体制や財務計画を精査した末に出された結論である。
文科相が最終的な認可権限を持つとはいえ、基準を満たした3校の新設を大臣の判断で認めなかったことは、「裁量権の乱用」と批判されても仕方がない。
しかも、田中文科相は、設置審が認可答申を出した、他大学の学部や大学院の新設については認可している。大学新設だけを不認可としたこととの整合性をきちんと説明できるのだろうか。
文科相の独断と暴走がもたらす混乱は計り知れない。
来春開校予定だった大学側は校舎整備を進め、教員も確保している。3校の一つ、秋田公立美術大の開校を目指す穂積志・秋田市長が、不認可の撤回を求める方針を表明したのは当然と言える。
入学希望者から「直前に言われても困る」といった声が上がるのも無理はない。
一方で、大学を取り巻く状況は厳しさを増している。
少子化で学生が減少しているにもかかわらず、規制緩和により大学の新設が続き、大学の数は20年前の1・5倍にまで膨らんだ。
大学の中には、定員割れで経営難に陥るところもあり、先月には群馬県内で大学を運営する学校法人に文科省が解散命令を発動することを決めたばかりだ。
大学政策の見直しは必要だが、その際には、個別の大学の認可とは切り離し、中長期的な視点から、中央教育審議会などの場でしっかりと議論すべきである。
問題閣僚のスタンドプレーで現行ルールに沿った結論が覆されるようでは行政の継続性は失われ、教育現場が混乱するだけだ。