『中日新聞』2012年10月18日付
奨学金を考える(上) 返還に苦しんで 弁護士らへ相談
非正規雇用などで収入が不安定のため、奨学金の返還に苦しむ若者や親が多い。背景には、貸与中心の奨学金制度など構造的な問題がある。各地の法律家らは、奨学金返還についての相談活動に力を入れ始め、この問題に取り組む労働組合と、制度見直しを求める運動にも力を入れる構えだ。二週にわたり、奨学金の返還問題について考える。 (白井康彦)
奨学金の返還や労働相談に乗る首都圏なかまユニオン、日本学生支援機構労働組合(学支労)などの労組と各地の法律家らが、九月二十九日に開いた「奨学金返済ホットライン」。全国五カ所で計六十件の相談が寄せられた。
東海地方に住む主婦も、悩みを電話で法律家に伝えた。「子どもの奨学金返還の負担が重く、家計がピンチ。子どもも将来展望が見えません」
夫は六十歳で定年退職した後も会社勤めをしているが、年収は以前に比べ大きく減り、二百万円ほど。子ども二人は私立高校から私立大学に進み、下宿生活を送った。共に就職し、一人は正社員だが、もう一人は契約社員の扱いで、約一年勤めたものの諸事情から退職、今は求職活動中だ。
二人とも、日本学生支援機構の奨学金を高校生のときから利用。貸与総額は一千万円を超えた。現在は、失業中の子どもの返還を親が肩代わり。住宅ローンと合わせると、毎月十万円ほど返している。貯金は底をつきかけており、必死で節約する日々だ。
ホットラインの相談の大半は、親からの相談だった。「子どもが就職に失敗した」「就職はしたが、非正規労働で低賃金」「子どもが精神疾患になった」といった事情が目立つ。奨学金は子どもに支給されるが、通常は親が連帯保証人になる。
奨学金ホットラインは、これまでは労組が中心になって東京都や大阪市、那覇市で行っていたが、今回は全国各地の弁護士や司法書士に協力要請し、初めて名古屋市や札幌市でも開設した。
奨学金でシェアが大きいのは日本学生支援機構。同機構は、低所得などで返すのが困難な人向けに返還猶予制度を設けており、なかまユニオンなどは、相談を受けた際に「返還猶予制度を使えば、返還を一時的にストップできる」とアドバイスする。
ただ、奨学金の返還に迫られ、消費者金融なども利用して多重債務に陥った人も少なくはない。そうした場合などは、法律家に頼んで債務整理することが必要だ。
日本弁護士連合会貧困問題対策本部に所属する岩重佳治弁護士は、各地の弁護士や司法書士に協力を要請した結果、「全国の五十人ほどの法律家に協力してもらえることになった」と説明。「今後は各地の弁護士会にも協力を呼び掛ける予定。制度改善に向け、弁護士会としての提言なども検討してほしい」と話している。
◆「非正規雇用で延滞」増
日本学生支援機構が持つ債権のうち、3カ月以上返還が延滞している分の金額は、2011年度末で2647億円。12年前の約2.8倍の水準=グラフ。学生への仕送り額が減少し続けるのに伴って、奨学金利用者が増え、比例して延滞債権額が伸びた。
非正規雇用労働者の割合が高まったことを反映し、今は延滞者の半数以上が非正規雇用や失業中の若者だ。全体の債権額の伸びが大きいので、今後も延滞債権額は伸びていく見込みだ。
労組幹部は同機構の奨学金制度にも問題があると指摘する。学支労の岡村稔書記次長は「返還が不要の給付型を導入すべきだし、貸与型については無利子タイプのものを拡充しなければ」と訴える。「大学の学費そのものを抑えるべきだ」という意見も、労組や法律家には強い。