『中日新聞』静岡版2012年10月5日付
静大連携講座 13日開講 ◆伊東学長に聞く
東日本大震災の被災地復興の見通しはたたず、震災の教訓を踏まえた新しい社会の姿はまだもやの中にある。昨年に続き、震災の問題と向き合う静岡大と中日新聞の連携講座「震災後の日本を考える 社会の読み方、創り方」の十三日開講を前に、静岡大の伊東幸宏学長(55)に聞いた。
-震災に関する大学の取り組みは。
被災地の復興に役立ちそうな大学の知識や技術を「知による貢献」としてホームページ上で公開した。特定の問題への対応としてはおそらく初めての試みだ。廃棄物を粉末燃料に変える技術などに問い合わせがきている。
学生には関連科目での単位取得と最終レポートの合格を条件に「防災マイスター」の称号を授与する制度を始めた。昨年度は教育学部の三人が称号を受けて卒業し、地域防災の拠点となる小中学校の教員になった。県との協力事業で「ふじのくに防災フェロー養成講座」も実施し、自治体や企業の担当者が受講している。
-震災以後、教員や学生の意識に変化は。
災害をより一層、自分たちに直結した問題と捉えるようになった。ボランティア活動への参加を含め、人の役に立ちたいという思いが強まっていると感じる。
-南海トラフ巨大地震の被害想定で、住民に不安が広がっている。
想定はあくまでも最悪の事態で何も手を打たなかったら、という数字だ。どういう手を打てば被害を減らせるのかと併せて理解していくことが大事。大学も客観的なデータの発信で役に立ちたい。
-講座の特徴は。
発生から一年半がたち、震災後の社会をどうつくっていくかという次のフェーズに入ろうとしている。防災や工学に加え、人文社会科学部、情報学部のメンバーがそろった。三回目の川瀬教授は早くから復興予算の使われ方を問題にしてきた。四回目には学生の発表もあり、教員だけでなく学生が社会に対してどのような貢献をしようとしているのか、見てもらえると思う。
-五回目はインターネットと政治参加がテーマになる。
アラブの春などを見てもインターネットが政治的に強い力を持っているのは確かで、脱原発の首相官邸前デモはその一つの表れだ。一方で、中国の反日デモでは、その強い力がコントロールされた時の怖さも垣間見えている。以前はアジ演説をしても声の届く範囲だったが、今は世界中の人が動きかねない。市民が高い見識を持つことがますます大切になっている。
(聞き手・立石智保)
<いとう・ゆきひろ> 東京都出身。1987(昭和62)年、早稲田大大学院理工学研究科博士後期課程修了。静岡大情報学部教授、情報学部長などを経て2010年4月から現職。
◆講座は来春まで5回予定
連携講座は、全五回のいずれも浜松市中区の静岡大学浜松キャンパス工学部システム棟で、来年二月まで月一回ずつ開催する。定員は百人、参加無料。
(1)10月13日午後2~4時 原田賢治・防災総合センター准教授「東日本大震災から津波防災を考える」(11教室)
(2)11月10日午後2~4時 青木徹・工学部、電子工学研究所准教授「正しく測って適切に怖がろう~放射線計測の仕組みと活用」(21教室)
(3)12月8日午後2~4時 川瀬憲子・人文社会科学部教授「東日本大震災後の政府復興予算と自治体財政~なぜ生活再建が進まないのか」(11教室)
(4)1月12日午後2~4時 水谷洋一・人文社会科学部准教授と環境政策研究室学生「検証・新しいエネルギー計画はどのようにつくられたのか」(11教室)
(5)2月2日午後2~4時 佐藤哲也・情報学部准教授「これからの政治のあり方~インターネットと政治参加」(11教室)
申し込みは公開講座係のウェブサイトかファクス、Eメール、はがきで先着順。各講座の二日前に必着。郵便番号と住所、氏名、電話番号、講座名、参加回を明記する。空席があれば、当日参加もできる。四回以上の参加者に修了証を発行する。
サイトはhttp://www.Lc.shizuoka.ac.jp/、ファクスは054(238)4295、はがきは〒422 8529 静岡市駿河区大谷836 静岡大学社会連携推進機構 連携講座係。問い合わせは同機構=電054(238)4817=へ。