「放射光施設を東北に」7国立大、復興支援で誘致に乗り出す『河北新報』2012年9月21日付

『河北新報』2012年9月21日付

「放射光施設を東北に」7国立大、復興支援で誘致に乗り出す 

 東北の7国立大が連携して、強力な電磁波(放射光)を用いて物質の構造を詳しく解析する大型放射光施設の東北への誘致に乗り出している。エレクトロニクスや医療などの最先端の研究成果を企業誘致や産業創出につなげ、東日本大震災からの復興に役立てる。7大学は学長レベルの推進会議を発足させ、建設を求める要望書を文部科学省に提出するなど活動を強めている。

 大型放射光施設による物質分析は、ナノテクノロジーやバイオテクノロジーなど幅広い分野にわたり、企業側の利用ニーズが高い。推進会議事務局の早稲田嘉夫東北大名誉教授によると「先端材料の企業など、予備調査では潜在的な需要は約600件に上る」という。

 国内には理化学研究所の「スプリング8」(兵庫県佐用町)、高エネルギー加速器研究機構の「フォトンファクトリー」(茨城県つくば市)など大小九つの放射光施設がある。東北は空白域となっている。

 施設構想は昨年6月、東北の研究者有志が発案。弘前、岩手、東北、宮城教育、秋田、山形、福島の7大学の研究者約60人による検討会が打ち出した。今年5月、日本放射光学会が支援を表明。6月に推進会議(世話幹事・入戸野修福島大学長)と専門委員会を設け、8月末に文部科学省に要望した。

 新設を目指す放射光施設はリング型で、全長は約300メートル、直径は約100メートル。炭素や酸素など「軽元素」の解析に適した軟エックス線ナノビームを中心に、産業利用を目指す。設置場所は建設が認められた時点で各県から募る。

 既存施設の技術利用により、建設費はスプリング8の約5分の1の約200億円で済むという。着工すれば、3年以内の運用開始を見込む。

 東北大は推進委員会を設ける方針で、設置を後押しする。伊藤貞嘉理事は「放射光施設は、ものづくり産業などを直接支援する最先端ツール。データの解析などで全面的にサポートしたい」と話している。

[大型放射光施設]電子を全長数百メートルのリング型加速器や線型加速器に入れ、光とほぼ等しい速度まで加速させ、磁場の力で電子を曲げた際に発生する放射光を利用して物質の構造を分析する装置。放射光を当てて得られる原子の回折像を調べると、物質の性質を決める結晶構造情報が分かる。生命科学や医療、エレクトロニクスなど幅広い分野に利用されている。

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