『読売新聞』社説2012年8月26日付
教員養成改革 指導力ある若手の育成を急げ
教員になる人には、大学の4年間に加え、大学院で修士レベルの教育を受けてもらう――。
教員の資質向上策として、中央教育審議会が近く文部科学相に提出する答申案にそんな提言が盛り込まれた。
いじめや不登校など、学校で深刻な問題が増えているにもかかわらず、教員が適切に対処できていないとの批判は根強い。
近年、教育現場では、大量採用されたベテラン教員の退職や業務の多忙化などで、若手教員を育てる余裕が失われつつある。教員同士が学び合い、指導法を受け継ぐという雰囲気も乏しいようだ。
教員養成システムが手直しを迫られているのは確かだろう。
答申案によると、学部4年を修了すると、仮免許ともいえる「基礎免許」、その後、大学院で必要な課程を履修すれば「一般免許」を付与する。基礎免許のみでも教壇に立てるが、一定期間内に一般免許の取得を求めるという。
校長経験者ら実務家が指導にあたり、学校での実習を重ねる養成方法の確立を目指す。その中核として想定しているのが、2008年に開設された教職大学院だ。
養成にある程度、時間をかけ、実践的な指導力を身につけさせるという狙いは理解できる。
ただ、教職大学院は現在、25校にとどまる。定員は計815人で、毎年の教員採用数(公立で3万人)に遠く及ばない。受け皿整備は今後の重要な課題である。
大学院に通う学費負担の問題もある。奨学金など適切な支援がなければ、優秀で意欲のある人材が経済的な理由から教員志望を断念することになりかねない。
今後10年間は、定年を迎える教員の大量退職が見込まれ、教員全体の約3分の1が入れ替わる。若手教員の養成は喫緊の課題だ。
「修士制」導入の検討と並行して、教員養成に携わる大学が自ら、カリキュラムの改善を早急に進めることが肝要である。
大学側は、教員を採用して学校に配置する教育委員会と密接に情報交換を重ねるべきだ。指導内容が現場のニーズに即しているかどうかについても、厳しく点検しなければならない。
社会人に教員への門戸を開くことも大切だ。例えば、科学の研究者が教員として、その面白さを伝えれば、子供の理科離れを防ぐ一助となろう。子供の英語力向上に役立つ人材も登用したい。
幅広い層の多彩な経験を生かすことが、教育現場の活性化につながるはずだ。