『東京新聞』2012年8月18日付
概算要求基準が決定 政権交代で白紙撤回も
政府が十七日に閣議決定した、来年度予算の方針や上限を示す「概算要求基準」は、予算を要求する側の各省庁に経費を削るよう努力させ、節約できた額に応じ、再生エネルギーなど成長分野へは大幅増の要求を認める新ルールを設けた。ただ、野田佳彦首相は「近いうち」の解散を表明し、最終的な予算案が決まる見通しの年末までに衆院選があることも十分考えられる。政権が代われば、予算編成の方針そのものが「白紙」となりかねない。 (石川智規、関口克己)
■新ルール
環境・エネルギーと医療・健康、農林漁業の三分野に予算を重点配分することにした背景には、政府が七月末にまとめた「日本再生戦略」がある。東日本大震災や東京電力福島第一原発事故を踏まえ、再生エネルギーの導入を促し、医療・介護業界を拡大させ、雇用増と経済成長を目指す考えを示した。
概算要求の新たなルールでは、各省庁が政策経費などを削った上で、削減額の二~四倍までの範囲で別の予算に組み替えられる。エネルギー分野は四倍、医療介護や農林漁業は二倍と、野田政権が掲げる重点分野ほど倍率が高い。
■掛け替え
だが、新ルールはもろ刃の剣でもある。
今回、各省庁は経費を原則、二〇一二年度比で10%カットする方針だが、想定通りに歳出削減が進まない事態も予想される。
例えば、経費削減額が四千億円と見込まれる国土交通省がこの削減額のすべてを環境分野に変えれば、数字上は一兆六千億円を別途要求できる。「環境に資する道路」などと称する予算要求が増えることになりはしないか。看板を掛け替えただけの便乗要求が積み重なれば、歳出の大枠とした本年度並みの七十一兆円を超える可能性が逆に高まる。
財務省は、年末の予算編成段階までに既存経費を削ったり、各省庁で似たような事業が並ぶのを防いで最終的には七十一兆円の枠を堅持する方針。成長と財政健全化を同時に進めようとする方針が、どっちつかずになる懸念も残す。
■リセット?
政府は、概算要求を締め切る九月七日以降、具体的な予算編成に着手する。ただ、野田政権がその予算編成から途中で降りざるを得なくなる事態も予想される。
与野党では、衆院の一票の格差を是正するために小選挙区を「〇増五減」する定数是正の法案を九月八日までの今国会中に成立させた上で、小選挙区の区割り実施と周知期間を経た今秋にも、衆院が解散されるとの見方が広がっている。首相も具体的な解散時期は「明示できない」としながらも、今秋から年内までの解散の可能性は否定しない。
一方、自民党は前回衆院選で下野して以降、一〇年度から予算編成に関与できず、支持団体からの支援が先細り、屋台骨が揺らいでいる。だが、衆院解散をめぐり、谷垣禎一総裁と首相とが腹合わせしたことで、「政権復帰が近づいた」との機運が高まっている。
もし、自民党が三年余ぶりに政権復帰すれば、野田政権が進めた予算編成をリセットするのは確実。霞が関では政局を横目に、気もそぞろな予算編成作業が続く。