あきた 医療を問う 第3部・人材育成[寄付講座]実技通じ総合力養う 県全体で教育体制支援『秋田魁新報』2012年7月13日付

『秋田魁新報』2012年7月13日付

あきた 医療を問う 第3部・人材育成[寄付講座]実技通じ総合力養う 県全体で教育体制支援

 医師役 どのような痛みがありますか。

 患者役 頭が脈打つように痛くて。それがいつも片側だけなんです。

 秋田大学医学部の入学して間もない1年生120人を対象とした初年度ゼミ。先月行われたゼミでは、学生が医師役と患者役に分かれ頭痛について模擬診断する授業を行っていた。

 「コミュニケーションで良かった点、悪かった点はありますか」。一つの班の発表が終わると、長谷川仁志教授が問い掛ける。学生からは「良性の頭痛と緊急性の高い頭痛の区別をもっとすべきではないか」などの意見が出た。

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 秋田大医学部は2011年度から、1年生を対象に、一般市民から募った模擬患者相手に医療面接の実技試験を実施している。臨床能力の向上を目的とした医療面接を1年時に行うのは、全国で初の取り組み。ゼミの模擬診断は、医療面接に向けたトレーニングの一環で、頭痛のほか、胸痛、腹痛、めまいの症状を学ぶ。

 全国的に見ると、1年時は座学を中心とする医学部が大半であり、秋田大の取り組みは注目されているという。

 初年度ゼミを担当するのは、「総合地域医療推進学講座」。県が08年10月に開設した寄付講座だ。入学直後から人間性やコミュニケーション能力、幅広い診療力など将来、何科に進んでも対応できる総合力を身に付けさせ、患者中心の医療を実践できる医師の育成を目指す。

 学生の総合力を養う初年度ゼミに加え、09年度からは1、3年生を対象に、学生が医学部各科と県内の臨床研修病院を交互に見学する早期臨床実習も実施。地域医療の実情に触れる機会を増やしている。医療面接同様、在学中の早い段階で大学と病院を行き来し見学する実習は、全国的にも珍しい。

 早期臨床実習を経験した4年の男子学生(23)は「患者と直接話す機会があり、医師として頑張りたいという気持ちがより強くなった。実習先で見学した事例を、その後の授業で学ぶこともあり、モチベーションも上がった」と話す。

 講座の取り組みは学生たちにとって、県内医療現場で働くやりがいを実感する機会となっている。受け入れる病院側も、早期から学生教育に携わることで、病院としての指導力が向上しているという。

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 長谷川教授は「大学と県内各病院の熱意ある指導医の先生たちによって、1年時から卒業後の初期臨床研修(2年間)まで8年間にわたり、県全体でよりよい医師を育てようという教育体制が充実しつつある」と話す。

 県は「高齢化社会が進む中、総合力を持った医師の育成は重要」と寄付講座設置の意義を強調。「学部教育の段階で総合力を身に付けながら、県内地域医療の現場を体感し、関心を抱いてもらえることはありがたい。本県の医療現場で活躍する人材の輩出に期待している」としている。

県が設置する秋田大医学部の寄付講座
 県内の医師不足解消に向けて、県が人件費などの費用を寄付し大学に設置する講座。総合力のある医師養成を目指す「総合地域医療推進学講座」(2008年10月設置)と、医師派遣システムの実践的研究に取り組む「地域医療連携学講座」(10年7月設置)があり、本年度の県の負担額は2講座合わせて1億6500万円。

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