『琉球新報』社説2012年6月25日付
社説 原子力基本法改定 核兵器開発に道開くのか
看過できない由々しき事態だ。原子力行政の憲法と言うべき原子力基本法に「我が国の安全保障に資する」との文言が追加された。
解釈次第で核兵器開発に道を開く重大な変更だ。しかも日本の根幹に関わるこの変更が、さしたる議論もなく成立してしまった。
国会は直ちに再度の法改正を議論すべきだ。どうしてもこの法を制定したいと言うのであれば、国民の面前で堂々と議論し、その正当性を問うべきだ。
20日成立した原子力規制委員会設置法は、付則で原子力基本法の2条・基本方針を変更した。原子力研究・開発・利用は「平和目的に限る」という部分に「安全保障」を加えた。
法の成立過程がそもそも不自然だ。他の法律より優先するはずの基本法の、しかも根幹である基本方針が、下位の法律で改定されたのだ。しかも下位法の本則でなく、付則で書き換えている。
設置法の政府案にこの文言はない。民主・自民・公明3党の修正協議でなされた変更だ。法案が他党に届いたのは15日の衆院提出とほぼ同時で、その日のうちに衆院を通過し、20日には参院で可決・成立するという早さだった。しかも、衆院のホームページには18日の時点でも掲載していなかった。
これでは国民にはチェックのしようがない。他党が「3党は国民的議論をさせないために、ぎりぎりのタイミングで法案を提出した」と批判するのもうなずける。
あまりに不公正な手法と言うほかない。民主主義の原則にもとる。3党は手続きをやり直すべきだ。
提出した自民の吉野正芳衆院議員は「安全保障」について、「核物質の軍事転用を防ぐ(国際原子力機関=IAEAの)保障措置を指す」と答弁した。だが、安全保障は軍事を指すと受け止めるのが国際社会の常識であり、いかにも苦しい説明だ。
仮に提案者の言うような意図なら、軍事利用という解釈の余地が全くない文言に改めるべきだ。
20日には改正宇宙航空研究開発機構法も成立した。これも「平和目的」への限定を改め、防衛利用を可能にする内容だ。増税法案と政局をめぐるどさくさに紛れ、原子力と宇宙の軍事利用を進めていると受け取られても仕方がない。
政治の機能不全は深刻だ。国民の前で議論することの重要性を政治はあらためてかみしめてほしい。