「福島だから」学べるものを…入戸野修・福島大学長に聞く『読売新聞』2012年7月2日付

『読売新聞』2012年7月2日付

「福島だから」学べるものを…入戸野修・福島大学長に聞く

 福島大は昨年3月11日の震災発生時から学内の施設を避難所として開放し、翌4月には災害研究拠点を設けるなど、被災者支援の先頭に立ってきた。復興に向け、地元の国立大学が果たすべき役割は何か。入戸野修学長に展望を聞いた。

――被災地の大学としての役割をどう考えるか。

 「地域の大学として地元と長く付き合っていくというのが基本的な立場だ。震災後、県外から多くの大学(関係者)が訪れたが、現地調査をして資料を大学に持ち帰るなど、支援ではなく研究になりがちだった。私たちには地域に密着して研究活動を行ってきた歴史があるから、各教員が専門分野で生の声を聞いて支援につなげることができる。そこから新たな研究課題も生まれてくるはずだ」

――昨年4月に設置した「うつくしまふくしま未来支援センター」は、復興支援や災害科学研究の拠点となると期待されているが。

 「震災直後から教員、職員、学生たちがそれぞれに空間線量を測定したりボランティア活動をしたりし始めた。それらの多岐にわたる活動をきちんとまとめ、発信していくのが大学の役割だと考えた。今年4月からは外部から専任教員も招き、センター員38人態勢で本格的に始動した。『復興計画支援』『子ども・若者支援』など4分野で活動している」

――具体的な活動や成果は。

 「放射線量マップ、自治体の復興計画、地熱発電による土湯温泉(福島市)の復興施策、子供の心理調査など、さまざまな作成や支援をしている。学生も多く参加して、現場の体験を通して実践力を身に着けている。本来の目的は復興支援だったが、教育の場としての機能も備わってきた」

――今年4月には、立教大(東京・豊島区)と協力して大学院地域政策科学研究科のサテライト講座を東京で開講した。

 「震災や原発事故のことを東京の人たちにも考えてほしい、東京から見た震災の姿を発信してほしい、という視点で始めた。今年度は院生6人で、マスコミやボランティア活動など多様なキャリアを持つ人が集まった。福島大の卒業生もいる。講座は『ふくしま復興学』と銘打ち、防災行政、賠償法制など災害復興に関することを学ぶ。従来、災害といえば地震や津波のことだったが、原発事故や風評被害などの視点も加え、どう復興させるか、どう支援できるかを考えていく。教員と学生が議論を交わし、基礎から実践まで体系的に新しくつくりあげていきたい」

――今後、目指していく大学の姿は。

 「個性のある大学だ。津波や原発事故など複合災害を受けた福島の大学だからこそ学べるものを提供していきたい。今年、一般入試で入学した県内出身者数は、学部を再編した2005年度以降初めて、県外出身者数を超えた。福島で学び、それを福島のために役立てたいという学生が多い。その思いに応えられる教育環境を整え、復興のリーダーとなる人材を育てていくことで、地域の大学としての役割が明確になっていくと考えている」

(聞き手・小沼聖実)

にっとの・おさむ
 1941年、横浜市生まれ、70歳。東工大大学院修了、工学博士。専門は物質科学など。東工大教授、福島大共生システム理工学類長などを歴任し、2010年から現職。趣味は、科学の原理を使った「科学マジック」で、ネタを考えては子ども向け科学講座や大学卒業式などで披露している。

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