大学改革―減らせば良くなるのか『朝日新聞」社説2012年6月23日付

『朝日新聞」社説2012年6月23日付

大学改革―減らせば良くなるのか

 政府の国家戦略会議がテーマの一つとする大学改革論議で、大学の「統廃合促進」が取りざたされている。

 いわく、大学が増えすぎて学生の質が下がった。専門知識はおろか一般教養も外国語も身についていない。大学への予算配分にメリハリをつけ、競争によって質を上げよ。校数が減って大学進学率が下がってもいい。

 企業人や閣僚が、そんな主張を展開した。

 しかし、大学や学生の数を減らせば質が上がるのか。弊害にも目を向ける必要がある。

 問題提起じたいはわかる。

 学生の勉強時間は少ない。東大の調査では、米国の学生の過半数は授業以外の勉強時間が週11~15時間だが、日本は5時間以下が6割を超える。

 世界と渡り合える優秀な人材を育てないと日本は埋没してしまう。産業界にはそんな焦りがある。新卒の3割が3年以内に離職することへの不満も強い。

 しかし、大学の淘汰(とうた)を進めると、都会と地方の格差が広がるおそれがある。

 大学・短大進学率は今でも東京都や京都府が60%台なのに対し、北海道や東北、九州の大半の県は40%台と開きがある。

 統廃合が進めば、体力のない地方の小さな私大からつぶれ、地方の裕福でない家庭の子は進学の機会を奪われる。

 学生が勉強しないのは企業側にも原因がある。3年の後半から就職活動が始まり、専門課程の勉強がろくにできない。

 それに、大学の現場はむしろ学力が足りない学生をいかに底上げするかに頭を悩ませている。それは高校までの教育や大学入試のあり方も合わせて見直さなければ解決しない問題だ。

 そこに手をつけずに統廃合を進めたのでは、行き場を失う子を増やすだけに終わるおそれがないか。仕事に必要な能力が身についていない若者が増えれば、年金などの社会保障を担う層が細ってしまう。

 そもそも日本の大学進学率は先進国の中で決して高い方ではない。大学教育への公費負担の割合も低い。

 ただでさえ少ない予算を上位校に回し、下から切り捨てるようなことになれば、人材の層がますます薄くなってしまう。

 複数の大学が運営部門や教員を共有し、研究や教養教育を共同で行う。そうした「連携」で経営の効率を上げる。そして、生まれた余力は各大学の特色を高める工夫に回す。

 淘汰のムチをふるうより、そんな底上げをめざすほうが実りがあるのではないか。

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