大学・大学院生、原子力離れ 産業先細りで就職に不安 『朝日新聞』2012年6月1日付

『朝日新聞』2012年6月1日付

大学・大学院生、原子力離れ 産業先細りで就職に不安 

 東京電力福島第一原発事故の影響で、原子力を専攻する学生が減っている。朝日新聞が、専攻のある全国の大学と大学院に調査したところ、入学志望者数が全体で約1割減った。事故による原子力へのイメージ悪化に加え、原子力産業の先細りで就職に不安を感じている側面もあるようだ。

 朝日新聞は「原子」という単語が入る学科、専攻のある全国3大学と7大学院に事故前の2011年度と事故後の12年度の入学志望者数を取材した。結果、新設を含む3校が増加、7校が減少し、全体では804人から1割以上減って713人になった。

 特に、13基の原発が立地する福井県にある福井工業大は、志望者数が11年度の60人から、12年度は24人に激減。入学者数も設置当初の10人から11年度は34人にまで増えたが、12年度は10人だった。

 同大は05年に原子力技術応用工学科を設置。原子力関連の資格を在学中に取得でき、卒業生の多くは経済産業省や電力会社に就職してきた。中安文男教授(原子力学)は「原子力に対する負のイメージが強く、高校の先生や保護者に止められたのかもしれない」と話す。

 入学後に専攻を選ぶ大学でも深刻な事態になっている。2年次にコース分けする名古屋大学工学部物理工学科で学生に意向を聞いたところ、原子力を学ぶ量子エネルギー工学を第一志望にした学生は事故前、定員とほぼ同数の約50人だったが、事故後は半分以下になった。山本章夫教授(エネルギー科学)は「事故の影響は明らか。原発の安全性に主力を置くようなカリキュラムを取り入れたい」と話す。

 東北大学工学部では、機械知能・航空工学科が3年次から研究室を選ぶが、原子力に関連する14研究室のうち、昨年度より4研究室多い9研究室が定員割れをした。

 就職活動にも影響が出ている。日本原子力産業協会は年2回、大阪と東京で原子力関連の企業が参加する就職セミナーを開いてきた。事故前の10年度は来場者数が1903人だったが、11年度は496人と4分の1に。参加企業数も65社から53社に減った。

 もともと人気が低かった原子力分野だが、福島事故前の数年間は、化石燃料の価格高騰や温室効果ガスの削減が世界的な問題となり、「原発ルネサンス」と呼ばれるほど原発を再評価する動きが高まっていた。各大学や企業はこうした動きに合わせて、入学者や採用者数を増やしていただけに反動は大きい。

 ある大手プラントメーカーは「原子力事業に投資してきたが、福島の事故で事業は厳しい状況になっている。そんな中で採用数を増やすのは難しい」と苦しい胸の内を明かす。

 福井県内の大学で原子力を専攻する男子大学生(20)は「学ぶ前から、危険だから嫌だと思い込んでいる高校生は多いと思う。僕は福島の事故を忘れたくないので、卒業後も原子力に携わっていたいと思う」と話す。(高橋玲央、山田理恵)

■研究者は必要
 原発の即時廃止を訴え続けている小出裕章・京都大学原子炉実験所助教の話 福島の原発事故や放射性廃棄物の後処理を押しつけるのだから、若者が嫌がるのは当然。ただ原発が現存するのは事実で、研究者はこれからも必要だ。

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