共同獣医学部 大学の「薩長連合」に期待『西日本新聞』社説2012年5月6日付

『西日本新聞』社説2012年5月6日付

共同獣医学部 大学の「薩長連合」に期待

 明治維新を生み出す原動力となった薩摩藩と長州藩による「薩長連合」を、ほうふつさせるような出来事である。

 日本の大学が、大きく変わる契機となるかもしれない。そんな思いを抱かせる試みが、今春から始まった。

 鹿児島大と山口大が本年度、設置した「共同獣医学部」のことである。

 両大学の農学部にあった獣医学科を改編し、それぞれに新設した。入試は別々に実施するが、インターネット回線で結ぶ遠隔授業のほか、相互に学生が出向いての実習もある。同じ教育課程で世界に通じる獣医師を育てるのが狙いだ。

 近年の獣医師には、動物の治療にとどまらず、口蹄疫(こうていえき)や鳥インフルエンザなど感染症への対応、食の安全確保など幅広い知識と技術が求められている。

 だが、現状はどうか。獣医学系の学部や学科を持つ大学は国公私立合わせても計16校で、大学当たりの教員も欧米の4分の1程度しかいないという。

 2年前、宮崎県で口蹄疫が発生した際に獣医師不足が明らかになり、獣医師育成や臨床教育の充実などの課題が浮き彫りとなったことは記憶に新しい。

 とはいえ、国の財政事情は逼迫(ひっぱく)し、受験人口は減少するなど、大学を取り巻く環境は年々厳しさを増している。

 「一つの大学で教育環境を充実させるのは難しい」(鹿大)現実があるのも事実だ。その意味でも、共同獣医学部の設置は意義深いものといえる。

 共同学部の新設自体、両大学が全国で初めてであり、成果が注目される。

 2009年3月に施行された大学設置基準の一部改正で、国公私立を問わず複数の大学が共同で学科や学部、大学院などを創設することが可能になった。

 大学の教育課程共同化は、05年の中央教育審議会による「高等教育の将来像答申」などを踏まえ、地域活性化や特色ある教育研究の推進のため掲げられた。

 各大学が単独では実践が困難な人材養成や地域貢献に、効果的に寄与し、学問の学際化などによる新しい教育研究ニーズに迅速対応するのが目的である。

 社会的役割が増大しながら欧米に比べ研究基盤が貧弱な獣医学教育は、この制度を最大限生かせる分野といえる。

 鹿大は畜産地帯を抱え、家畜などの産業動物に強い。山大はペットなどの感染症分野が得意だ。両大学は互いの強みを生かし、共同学部の教育水準を上げていくという。今後に期待したい。

 このような取り組みは、大学院ではすでに行われている。東京女子医科大と早稲田大は10年4月、大学院に共同先端生命医科学専攻を設け、医用材料分野や人工臓器さらに医療ロボットなど医学と理工学の学際研究を進めている。

 今後は、他大学でも研究分野ごとに連携が模索されるであろう。その先鞭(せんべん)をつけた鹿大と山大の挑戦が、大きな刺激となることは間違いない。学部再編が秘める新たな可能性に期待したい。

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