【「原子力」入学者16%減】今春、原発事故が影響/「原子力ルネサンス」一変 共同通信配信記事2012年4月16日付

共同通信配信記事2012年4月16日付

【「原子力」入学者16%減】今春、原発事故が影響/「原子力ルネサンス」一変

 原子力を研究する大学の学科や大学院の専攻に今春入学した人は、東京大など7大学の合計で昨年より16%減少、最大71%減った大学もあったことが共同通信の集計で16日、分かった。東京電力福島第1原発事故で関心が高まる原子力だが、文部科学省は「将来性が不安視されているのではないか」としている。

 脱原発が進む場合でも、福島第1原発などの廃炉作業、放射性物質の除染技術開発、既存原発への対応など、メーカーや電力会社などで原子力分野に携わる人材は必要だが、今後確保が困難になる可能性がある。

 集計対象は、「原子力」「原子核」などの名称が入った学科や大学院の専攻を入学時に選択できる東京大、京都大、福井大、早稲田大、東京都市大、東海大、福井工業大。今春新設された長岡技術科学大や「今後公表する」と回答した東京工業大は除いた。東大は入学者数を回答しなかったため合格者数を集計対象にした。

 7大学の対象の学部、大学院の入学者の合計は223人で昨年の264人から16%減った。福井工業大は昨年の34人から10人へ71%減、福井大は42人から25人と40%減。両大学がある福井県は、再稼働に向けた手続きが進む関西電力大飯原発など原発が集中している。

 志願者は合計647人で昨年比12%減。昨年は志願者、入学者ともほぼ前年並みで、今春の減少が目立つ。定員割れした大学もあった。

 福井工業大の中安文男(なかやす・ふみお) 原子力技術応用工学科教授は「停止中の原発の再稼働の見通しも不透明で、学生が不安を感じている」と指摘する。

 志願者が昨年から約1割減った東大の担当者は「(電力会社などへの)就職目的の学生が減る一方、海外からの留学生が増えた」としている。大阪大や近畿大などにも「環境・エネルギー工学専攻」などの名称で原子力関連学科や専攻があるが、文科省によると同様の傾向とみられるという。

【原子力業界の将来性懸念 教員養成も課題】 

 今春、大学の原子力関連学科などで入学者が減少したことについて、文部科学省の担当者は「30年、40年先も働けるか。学生は原子力業界の将来性を冷静に見ている」と分析する。

 この数年は、地球温暖化対策を背景に「原子力ルネサンス」と呼ばれる原発推進機運が海外で高まり、入学者は増加傾向だったが、昨年の東京電力福島第1原発事故の影響で一変した。

 「原子力発電や放射線利用の実践的な技術者を育成する西日本唯一の学科」を看板にし、卒業生の約9割が原子力関連企業や団体に就職する福井工業大。入学者は昨年の3分の1以下に落ち込んだ。中安文男(なかやす・ふみお)教授によると、東南アジア地域は今後原発を増やす方針で、日本の技術力を頼りにしている国も多く「今後も人材が必要。こうした状況を高校生に説明したい」と話す。

 1986年のチェルノブイリ原発事故後、原子力が付いた学科や専攻の名前を「エネルギー工学科」などと変更する大学が相次いだ。東京工業大の斉藤正樹(さいとう・まさき)教授は「他の分野の研究者も入り、原子力の専門性が薄まった」と指摘。原発の新設が多かった70年代前後に研究者になった教員も退職を迎えるといい「優秀な教員の育成も課題だ」という。

▽大学の原子力教育  

 大学の原子力教育 原子力の研究開発や利用の原則などを定めた原子力基本法が成立した後の1956年、東海大が国内で初めて原子力工学専攻を設置。その後、東京大や京都大、大阪大など国内の大学で関連の学科や専攻が次々と設置された。原子炉や核燃料サイクル、放射線の関連技術や核融合などが教育研究の対象で、研究者や、メーカーや電力会社などの技術者を送り出した。社会情勢や大学教育の方向性転換の影響を受け、「量子」「エネルギー」などの名称に変更した大学も多い。

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