次世代の育成と活躍できる社会の形成に向けて平成 24 年4月9日国家戦略会議有識者

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次世代の育成と活躍できる社会の形成に向けて

平成 24 年4月9日
岩田 一政
緒方 貞子
古賀 伸明
長谷川閑史
米倉 弘昌

 

我が国の成長は、「人材」によって支えられてきた。海外でビジネスや研究を行う人材、地域で医療・介護等に取り組む人材など多様な生き方・働き方のもと、我が国の経済社会は成り立っている。これらの人材すべてが、その能力を高め、生かすことが我が国の活力の源泉となる。グローバル化や人口減少など内外の経済社会構造が大きく変化する中で、我が国が成長を続けていくために、今後、特に以下の3点を柱として「人材」の育成や確保に取り組んでいくべきである。

“世界の人材輩出国”への飛躍
日本再生には革新的な技術開発等を通じ成長を実現していくことが重要。産業構造の再構築とともに、その原動力ともなる人材の育成強化が不可欠。世界で活躍し、イノベーションを起こす人材を大規模かつ集中的に社会に輩出。

“層の厚み”の確保
経済社会の変化に対応して教育システムの転換を図り、女性や若者を始め、より多くの多様な人材を含む中間層が、それぞれの働き方の中で、産業構造転換や技術革新に対応し、能力を高めつつ意欲を持って活躍し続ける環境を構築。

“自立支援”の推進
グローバル化や家族形態、地域基盤等の構造変化の中で、失業等で生活の基盤が失われるリスクが高まり、若い世代の生活保護の拡大など「若者の貧困」が広がる中で、すべての人が可能な限り自立して生きていける社会を構築。

世界で活躍する人材の育成 ~“世界の人材輩出国”への飛躍~

 グローバル化の中で、欧米、アジア諸国のエリート層との競争に打ち勝つ人材、創造力に富んだ人材を育成する必要がある。そのため、我が国が世界の成長力を取り込んで成長するため、教育や研究において質の向上を図るとともに国際化を進め、留学促進等による海外への進出や、留学生の受け入れ拡大等による世界の優秀な人材との競争等の機会の飛躍的な拡大が求められる。また、そうした経験を通じて、グローバルな感覚と国を愛する心の両方を持った、我が国の真のリーダーを育成する必要がある。このため、以下の取組を進めるべきである。

→9月入学と Gap Year の導入に向けたロードマップの策定
年央までに産学官が9月入学等の検討状況を持ち寄り、産学官が連携してさらに検討を進める場を設置すべき。関係者が取り組むべき事項のロードマップを平成 24 年度中に策定すべき。まずは国家公務員の通年採用、留学経験者の獲得方法等の検討に取り組むべき。

→若手研究者の切磋琢磨“夢プロ X ”
政府は、我が国が強みを有する戦略的な成長分野を選定し、若手研究者と外国の優秀な研究者が対等な関係で切磋琢磨しながら自立して研究を行う取組について支援すべき。併せて有望な学生に集中的な教育を実施し、研究拠点間の研究者や学生、産業界との交流を推進すべき(研究拠点間のコンテスト等の実施)。

研究費の審査員の充実など、研究計画書の申請・審査方式を改善。研究費配分のメリハリを効かせ、若手の優れた研究の安定的な継続が可能になるよう、若手研究者向け研究費の基金化や研究期間中の中間評価結果を次期申請の評価に生かすなどの改善等を実施すべき(平成 24 年度から)。また、ポストドクターに対し、企業との人材マッチング、長期インターシップの実施等の多様なキャリアパスを開拓するような取組を強化すべき。

→世界の人々と円滑な意思疎通ができる語学力を持つ大学生の倍増
総人件費抑制の方針との整合性を図りつつ、国立大学の人件費管理手法を見直し、外国人教授を積極的に採用(倍増)すべき。また、外国人学生受け入れについては、「スタディ・イン・ジャパン」キャンペーンを実施し、国費外国人留学生制度の改善等により、質の高い外国人学生 30 万人の受入れを 2020 年までに実現すべき。英語で学位が取得できるコースの倍増や留学生受け入れのための環境整備を行うべき。併せて、政府として、国費の留学支援制度の充実等により海外留学を推進すべき。Gap Year の活用など教育と職業の接続の観点も含め、特にアジア展開など海外進出する日本企業への中長期インターンシップや青年海外協力隊への参加を促進すべき。
単位の相互認定(高校同士の相互認定も促進)や科目のナンバリング、ダブル・ディグリー(日本と海外の大学によりそれぞれ学位を授与)等の導入を促進し、海外の大学等との連携を推進すべき。大学の情報公開をさらに促進し教員採用など大学経営のガバナンスを可視化すべき。

→国際競争力を担う大学院生の戦略的育成
産業競争力や産業構造の現状と今後の変化を踏まえ、我が国の競争力の高い分野やグローバルアジェンダの解決に貢献し世界をリードすべき分野の研究開発等に資する国公私立の大学院やビジネススクールに国の助成を重点配分し、当該分野の大学院生(社会人を含む)の育成を強化し、人材供給のミスマッチを解消すべき。

→科学技術を担う人材育成の具体的な道筋の明示
昨年8月に閣議決定された科学技術基本計画の人材関連部分(第Ⅳ章)の推進方策について、数値目標や達成時期、工程等を今夏を目途に明らかにしつつ、早急に着手すべき項目を推進すべき。

→顧客起点の技術革新と新事業を創出する人材育成の強化
顧客起点の技術革新や新事業を創出する人材を育成するため、産学連携により、教育プログラムの作成等を進めるとともに、新事業創造のための実践の場づくりを強化すべき。また、専門学校等においてデザイン、アニメなどクリエイティブ産業を担う人材を養成する学科を設置すべき。
大卒者等が厳しい就職状況にある中で、産業界が求める人材と教育機関が育成する人材のミスマッチや、卒業後に能力を高める機会が少ないことが指摘されている。今後、経済を支える人材が育成できるよう、日本の産業が誇る「ものづくり力」の継承など職業訓練・職業教育の取組の成果を検証しつつ、教育等の仕組みを経済社会の変化に対応したものへと大きく転換していく必要がある。

経済を支える人材育成の仕組みの転換 ~“層の厚み”の確保~

また、労働力が減少する中で、高い教育水準の人材層を有する我が国の強みを発揮していくために、女性の活躍をはじめ、多様な人材が活躍する分厚い中間層のある社会を作る必要がある。さらに、企業の海外展開や対内直接投資の促進等を通じて経済を活性化し、雇用の増加を図ることも重要である。OECD 諸国に比べ対 GDP 比で教育や積極的労働政策への支出が少ない現状を踏まえ、メリハリをつけた政策展開を行うため、特に以下の点に重点を置き、層の厚みを確保すべきである。

① 教育システムの抜本改革
9月入学の導入をきっかけにして、教育水準を一律に提供できる体制を前提とする考え方から転換し、経済社会の変化に対応した教育、意欲のある地域・学校における柔軟な教育を重点的に強化することにより教育の機会均等と多様な教育環境の整備を両立する一方で、教育の最低水準の確保はしっかりと図る必要がある。そのことが我が国を支える「分厚い中間層」を生み出す基盤となる。
また、子どもたち一人一人の人格の完成を目指すとともに、自立できる経済力、能力を身につけ、社会に参加することを実感として理解できるよう、幼児教育を含めた初等中等教育において、例えば小中学校における地域の企業や大学等との連携、授業への外部人材の積極活用等により、理科離れの抑制やキャリア教育の充実等を図る必要がある。このため、以下の取組を進めるべきである。

→次世代を見据えた教育システムの抜本改革
六三三制等の学制の在り方も含め、教育体系を抜本的に見直し、小中・中高が連携した一体的な教育を充実すべき(中高一貫校や総合学科の充実に向け具体的な数値目標を年央までに設定)。また、高校卒業までに、社会に参加するために高校段階でどのような能力が必要かを産業界及び労働界の意見を踏まえて検討し、こうした要素をチェックするための方策を含めた高校教育改革プログラムを、24 年度中に国として、取りまとめるべき。加えて、高等学校において大学教員による出前授業など大学レベルの教育機会を提供すべき。専修学校の教育の質向上、社会的役割の拡大を図るべき。さらに、特別免許状や特別非常勤講師制度の活用による社会経験を有する教員の採用拡大、教員に対して社会体験型の研修の導入、拡大を図るべき。

→大学の統廃合等の促進を含む高等教育の抜本改革
産業界が求める人材像と大学が育成する学生像のミスマッチを解消するため、以下の高等教育改革をパッケージで実現すべき。

・86 の国立大学法人について、今日的な意義や今後の役割等に照らして必要な見直しを行い、新時代に適応する研究・教育を行う特色ある国立大学法人への運営費交付金の抜本的にメリハリをつけた配分などの見直し等を進める。

・グローバル化や地域貢献など特色ある取組を進めるには大学間の競争が必要であり、私学助成の配分方法について、第三者評価結果の活用等により、抜本的にメリハリある配分を実施するための基準を平成 24 年度中に策定する。

・我が国の産業競争力の高い分野やグローバルアジェンダの解決に貢献し世界をリードすべき分野で活躍が期待される学生を対象とした授業料減免等の重点的強化(学生が社会貢献を行うことを支援の要件とすることの検討を含む)や、多様なニーズに応える大学間連携の推進や履修証明制度の活用による社会人教育を推進する。

・運営費交付金や私学助成に加え、優れた取組に対するファンディング等も活用しながら、統廃合等の促進を含む大学改革を促進するとともに、成長産業に対応した高等専門学校を増設するなど、高等教育の抜本改革を行う。その際、例えば学長のリーダーシップの強化や教授会を含む大学内の意思決定の透明化などによるガバナンス改革が促進されるようにする。

② 地域を支える中小企業の人材育成・確保
我が国を支えている労働者の多くは中小企業で働いており、その能力向上や人材確保は重要な課題である。しかし、近年、人材育成に重要な役割を果たしてきた企業内の訓練は減少する傾向にあり、設備投資をしても従業員訓練が不足し十分に生かし切れていないおそれも指摘されている。
さらに、近年の就職活動はインターネットを利用するケースが多くなり、HP を持たない中小企業は学生に魅力を十分に伝える機会が不足し、人材確保が困難になっている。このため、以下の取組を進めるべきである。

→地場産業が集積する地域等における人材育成の強化
事業展開と結びついた実践的な在職者訓練を企業が共同で実施するモデル的取組を集中支援すべき。また、それを通じて技術力を有する中小企業同士を新事業展開に結びつけるプラットフォームを提供すべき。その際、地元大学や高等専門学校、専修学校等と連携を図るべき。

→成長分野やものづくり分野における職業教育の強化
地元企業等と複数の専門学校・大学等との連携・協力により、医療・福祉・健康、環境・エネルギー、食・農林水産分野等における中核的専門人材養成のためのモデルカリキュラムや達成度評価指標の開発・実証等を実施すべき。

→中小企業の魅力を伝える取組の強化
地元大学、高等専門学校、専修学校が企業の人材育成に協力し、必要な人材の認識を共有することが重要であり、地域の産学官等が協力し、中小企業への採用成功例の共有や、中小企業から学校へ仕事の説明などの取組を促進すべき。また、中小企業の共同の人材募集の取組を促進すべき(都市部で集団面接会、インターネットを活用した募集等)。

→農業の新規就労の促進
農業未経験者の新規就農のハードルを低くするため、県農業大学校等の教育機関、先進農家等での研修の実施と、
研修終了後に就農した場合の初期投資支援など、研修・初期投資等の一体的支援の拡充を図るべき。

③ 女性の活躍と若者対策の強化
女性の活躍は、企業や社会の活力につながり、国際競争力の観点からもますます重要となっている。しかし、長時間労働などワーク・ライフ・バランスを欠く働き方が残る分野もあり、共働きが増える中で働きながら子どもを持つことに負担を感じる女性も多いなど、諸外国と比べて女性の活躍の場が広がっているとは言えない。今後は、共働きで子育てがしやすい社会(「Double Income with Kids」)を目指し、子ども・子育て新システムを着実に実現するとともに、男女ともに働きやすい職場を作る取組を進めるべきである。その際、公務員が率先して任用・働き方を変えるべきである。
また、若者については、厳しい就職状況の一方、雇用のミスマッチも見られることから、大企業から中小企業へ、大都市から地方へと、より広い視野で雇用マッチングの機会を捉えられ、より多くの就労機会を得られるようにする必要がある。若者が能力を高めながら働くことを通じて、社会を支える人材を育てていく必要がある。このため、以下の取組を進めるべきである。

→子ども・子育て新システムの早期実現
子ども・子育て新システムについて、早期に実現すべき。その際、待機児童を解消するとともに、例えば、看護師や介護福祉士のための保育所を病院・施設内に設け勤務に合わせた保育を提供するなど、働き方に応じた保育の実施や学童保育を拡充すべき。

→女性の活躍に向けた政府の取組の工程表を策定
働き方の見直しについては、より優秀な人材の発掘・活用につなげるため、企業内で経営者がリーダーシップを持って女性の活躍の目標を掲げるなど、まずは企業自らの積極的な取組が求められる。
また、男女共同参画会議においては、政府に対して、男女労働者間の格差の現状を把握し、女性の活躍を促進するポジティブ・アクションにつながるための仕組みについて、女性も含めた労使双方で検討し、企業の活用を促すことや、海外の状況等について調査を行い、社会の利害関係者に対しても、「見える化(情報開示)」を行っていくような方策等を検討すること、生き方・働き方に中立的な税制・社会保障制度の検討などを進めるよう求めている。これらを踏まえ、女性の活躍により経済を活性化する観点から、政府が重点的に行うべき取組を関係閣僚が連携して6月までに整理し、平成 24 年中にその工程表を明らかにすべき。行政においては、平成 27 年度末までに、国の本省課室長相当職以上の女性割合を5%程度、女性の採用割合を 30%程度等とする目標を達成するため、各府省が定めた「女性職員の採用・登用拡大計画」を着実に実施すべき。国家公務員の男性の育児休業取得率を平成 32 年までに 13%とするよう着実に取り組むべき。

→若者雇用戦略の早期策定と着実な実施
日本再生の基本戦略で掲げた「若者雇用戦略」について、早期に検討を進め、国家戦略会議に報告すべき。その際、特に、若者が早期に離職しないよう職業人生の前段階、初期段階で社会人基礎力とスキルアップの意欲を身につける取組の推進、若者のキャリアアップ支援強化(非正規雇用の職業能力開発の推進によるキャリアアップ)、産学官が連携して職業訓練・職業教育を実施する取組の推進を図るべき。
グローバル化など経済社会構造の変化が進む中、雇用の不安定化や家族形態の変容などにより、現役世代で生活基盤の維持に困難を抱える人が増加している。とくに、若年層では生活保護受給者の伸びが目立つなど、「若者の貧困」が指摘される。また、生活保護制度が結果的に就労インセンティブを削いでいるのではないかとの指摘もある。
このため、まずは、失業等で生活が困窮した場合でも、生活保護の受給に至る前に自立した生活ができる、あるいは一旦受給しても自立した生活へと早期に戻れるよう支援を強化することが重要であり、その中で、生活保護制度についても就労インセンティブを強化する観点を中心に見直しを行う必要がある。このため、以下の取組を進めるべきである。

→自立支援強化と生活保護制度の見直しを含む生活支援戦略の策定
国民一人一人が社会に参加し、能力を発揮することを社会全体で支えていくため、自立に向けた活動を行う基盤となる住まい対策、個々の対象者のニーズ等に応じた計画的な個別支援、NPO・社会福祉法人等による多様な就労機会の確保、教育段階も含めたアウトリーチによる早期発見、マイクロファイナンスを含む貸付、生活保護制度の就労インセンティブの強化の観点からの国民目線の見直し(就労収入の一部積立制度の検討を含む)を図るべき。こうした生活保護に陥らないための自立支援の取組や生活保護からの脱出のための取組の強化、医療扶助の適正化対策、生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態との均衡を図ることなどを内容とする「生活支援戦略(仮称)」の骨子を年央までにとりまとめ日本再生戦略に反映すべき。また、貧困ビジネスへの対策の強化を図るべき。

“自立支援”の推進

グローバル化など経済社会構造の変化が進む中、雇用の不安定化や家族形態の変容などにより、現役世代で生活基盤の維持に困難を抱える人が増加している。とくに、若年層では生活保護受給者の伸びが目立つなど、「若者の貧困」が指摘される。また、生活保護制度が結果的に就労インセンティブを削いでいるのではないかとの指摘もある。
このため、まずは、失業等で生活が困窮した場合でも、生活保護の受給に至る前に自立した生活ができる、あるいは一旦受給しても自立した生活へと早期に戻れるよう支援を強化することが重要であり、その中で、生活保護制度についても就労インセンティブを強化する観点を中心に見直しを行う必要がある。このため、以下の取組を進めるべきである。

→自立支援強化と生活保護制度の見直しを含む生活支援戦略の策定
国民一人一人が社会に参加し、能力を発揮することを社会全体で支えていくため、自立に向けた活動を行う基盤となる住まい対策、個々の対象者のニーズ等に応じた計画的な個別支援、NPO・社会福祉法人等による多様な就労機会の確保、教育段階も含めたアウトリーチによる早期発見、マイクロファイナンスを含む貸付、生活保護制度の就労インセンティブの強化の観点からの国民目線の見直し(就労収入の一部積立制度の検討を含む)を図るべき。こうした生活保護に陥らないための自立支援の取組や生活保護からの脱出のための取組の強化、医療扶助の適正化対策、生活扶助基準と一般低所得世帯の消費実態との均衡を図ることなどを内容とする「生活支援戦略(仮称)」の骨子を年央までにとりまとめ日本再生戦略に反映すべき。また、貧困ビジネスへの対策の強化を図るべき。

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