岡山大・森田潔学長に聞く ■秋入学,飛びつかない/半年間どう過ごす・就職活動調整を『朝日新聞』岡山版2012年3月30日付

『朝日新聞』岡山版2012年3月30日付

岡山大・森田潔学長に聞く 

■秋入学,飛びつかない/半年間どう過ごす・就職活動調整を

 東京大が検討を始め、クローズアップされている秋入学。だが、地元・岡山大学の森田潔学長(62)は「私自身は、必ずしも秋入学であるべきだとは思っていません」と話す。秋入学について、どう考えるか聞いた。(長崎緑子)

――東大は国際化を目的に挙げます。岡大を国際的な研究・教育拠点に、という学長の理念とも合うのでは

 「秋入学イコール国際化」というイメージは、必ずしも正しくありません。留学しようとする時、春入学と秋入学の時期がずれているというのは多少の障害にはなりますが、研究に支障はないでしょう。

 医学部教授として指導したスタッフの多くを海外に留学させましたが、秋まで仕事をして出発してもらっていました。受け入れの際も秋に来てもらっていました。

――ということは、秋入学に反対ですか

 いや、大学全体をグローバル化するには、世界標準の秋入学にあわせた方がいいのは確かです。だから私を含め、秋入学に反対する人はいません。入学といえば桜というイメージは取り払わないといけませんが。

 ただ、岡大では学部生約3千人のうち、留学生は1%程度の30人ぐらい。秋入学で多少は留学生が増え、グローバル化が進むかもしれませんが、そのメリットは微々たるもの。障壁の方が大きいでしょう。

――障壁とは

 合格から入学までの約半年間、学生がどこにも所属しない「ギャップターム」が、まず問題になります。みんなが有意義に過ごすのは難しいのではないでしょうか。大学がすべて秋入学になったら、約80万人の若者が半年間、社会にあふれます。そんなに多いと、みんながボランティアというわけにはいかないでしょう。海外留学もいいですが、だれが費用を負担するかという問題が出てきます。

 それに、岡大医学部は入学者の約半数が浪人生。ギャップタームのような浪人期間を過ごした彼らを、さらに半年間、「無所属」にしてよいのかと思う。大学だけでなく、社会全体で関与しなければ、秋入学はうまくいきません。

――具体的には

 例えば、約半年ずれる国家試験や就職活動時期の調整が必要になるでしょう。行政や企業には、採用を春と秋の年に2回にしてもらわなければなりません。小学校から秋入学にするくらいの覚悟が必要です。

――岡大としては、どうしますか

 医師や教員などを専門に養成する単科大学だったら秋入学は導入しません。しかし、様々な学科が集まって多様な人材を輩出する総合大学である以上、学部によっては大きなメリットがあるかもしれません。地方大学だからこそ、グローバル化を進めたい気持ちは強い。学内で、メリットの検討と課題の洗い出しを進めています。

――いつ決断を

 「大学改革」のイメージとして、秋入学に飛びつくつもりはありません。ほかの大学の動向をふまえ、本当に学生にとってためになる入学時期はいつなのか、戦略的にじっくりと考えて決めるつもりです。

※秋入学 東京大学が全面移行を本格的に検討している。海外では主流となっており、留学生が行き来しやすくなって大学の国際化につながるとされる。一方で、合格から入学までの約半年が「ギャップターム」となり、学生側の経済的負担が課題として指摘されているほか、就職活動への影響も懸念されている。

■もりた・きよし 1949年、倉敷市生まれ。74年岡山大医学部卒。02年に同大医歯学総合研究科教授となり、11年に学長に就任。専門は麻酔・蘇生学。

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