文部科学省の公的研究費により雇用される若手の博士研究員の多様なキャリアパスの支援に関する基本方針~雇用する公的研究機関や研究代表者に求められること~ 平成23年12月20日 科学技術・学術審議会 人材委員会

http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu10/toushin/1317945.htm

文部科学省の公的研究費により雇用される若手の博士研究員の多様なキャリアパスの支援に関する基本方針~雇用する公的研究機関や研究代表者に求められること~

平成23年12月20日
科学技術・学術審議会 人材委員会

<目次>
Ⅰ.定義・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
Ⅱ.基本的な考え方・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1
Ⅲ.文部科学省及び公的研究機関に求められる事項・・・・・・・・・・・・・・・ 3
  1.文部科学省の公的研究費の公募要項等に反映する事項・・・・・・・・・・ 3
  2.公的研究機関や研究代表者に求められる取組・・・・・・・・・・・・・・ 4
  (1)公的研究機関に求められる取組・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4
  (2)研究代表者に求められる取組・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5
Ⅳ.その他・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5

参考資料1 文部科学省の公的研究費により雇用される若手の博士研究員の多様なキャリアパスの支援に関する基本方針の概要・・・・・・・・ 7
参考資料2 科学技術・学術審議会人材委員会 委員名簿・・・・・・・・・・・・ 8
参考資料3 科学技術・学術審議会人材委員会 審議経過・・・・・・・・・・・・ 9
参考資料4 第4期科学技術基本計画におけるキャリア開発支援に関する記載・・ 10
参考資料5 米国及び文部科学省におけるキャリア開発支援に関する取組例・・・ 11
参考資料6 関係データ集・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13
参考資料7 ポストドクター・キャリア開発事業 関係資料・・・・・・・・・・・ 26

Ⅰ. 定義

○ 多様なキャリアパスの支援に関する本基本方針を適用する「若手の博士研究員」とは、以下の①から④までの全ての要件に該当する者をいう。

①文部科学省の公的研究費(競争的資金その他のプロジェクト研究資金や、大学向けの公募型教育研究資金をいう。以下同じ。)により公的研究機関に雇用される者※1
②大学や企業等における安定的な職に就くまでの任期付の研究職にある者で、40歳未満の博士号取得者(博士課程に標準年限以上在学し、所定の単位を取得の上退学した者(いわゆる満期退学者)を含む。)
③公的研究費を獲得した研究代表者又は研究分担者(※2)でない者
④大学の教授又は准教授の職にない者、独立行政法人等の研究機関の研究グループのリーダー又は主任研究員に相当する職にない者

※1 いわゆるプロジェクト雇用型のポストドクター又は特任助教等を想定している。
※2 研究代表者とともに補助事業の遂行に責任を負い、自らの裁量で研究費を使用する者

○ 本方針において「公的研究機関」とは、大学、大学共同利用機関、研究活動を行っている独立行政法人、国の直轄研究機関等をいう。

Ⅱ. 基本的な考え方

○ 我が国は、少子高齢化と人口減少の中、今後、国際競争力を強化していかなければならない(図1~3)。世界と競い合う時代にあって、将来にわたって成長を続けるためには、高度な専門性に裏付けられた優れた資質や能力を有する若手の博士研究員が、産学官を問わず社会のあらゆる場で活躍できる社会システムを構築することが急務である。

○ 若手の博士研究員は、公的研究機関の教授等の研究者や産業界における研究開発リーダー等を目指して、海外での研鑽を積むなど多様な研究に従事し研究能力を高め、アカデミアにおける研究費やポストの獲得競争の厳しさを経験しつつ、自らのキャリアパスを見極める、いわば修行の段階にある者といえる。公的研究機関における先端研究の現場は、若手の博士研究員に支えられているのが実態であり、我が国の科学技術・学術の発展を支える原動力になっている。(図4、5)

○ 若手の博士研究員の側からみると、①企業へのキャリアパスが十分に開かれていないこと、②大学や独法研究機関の若手ポスト数は限られるだけではなく、近年は人件費削減等の影響により減少傾向にあることなどにより、将来のキャリアパスの展望が描きにくくなっているとの指摘がある。

分野別にみると、博士研究員はライフサイエンス系が4割を占めており(図 10)、理学系や農学系の分野においては、博士課程修了後5年が経過しても同様の任期付ポストに約3割が留まっている。(図17)

この状況は様々な要因が考えられるため、若手の博士研究員個人の責任にのみ帰することは適切ではない。

○ 科学技術の担い手は人であり、優秀な人材を絶え間なく育成、確保していくことが不可欠である。しかし、科学技術政策研究所が行った意識調査によれば、望ましい能力を持つ人材が博士課程を目指しているとの回答が減少傾向にある(図 24)。優秀な人材が希望を抱いて研究の道に飛び込むことができるようにするためには、若手人材が博士研究員終了後、国内外において多様なキャリアパスの展望が描くことができるよう、政府、公的研究機関及び研究代表者は、社会的責務として、産業界等と連携して若手の博士研究員の多様なキャリアパスの確立に取り組む必要がある。

○ 人材委員会は、この問題を、研究プロジェクト内の課題から研究機関の組織としての課題へ転換し、組織的なキャリアサポートを行うよう提言を行ってきた。これを受け、文部科学省では、平成18年度から支援事業(*)を展開しており、実施機関では様々な取組が進められ、実績をあげている。(参考資料7)

(*平成18~19年度:科学技術関係人材のキャリアパス多様化促進事業、平成20~22年度:イノベーション創出若手研究人材養成、平成23年度~:ポストドクター・インターンシップ推進事業)

また、人材委員会は第4次提言(平成21年「知識基盤社会を牽引する人材の育成と活躍の促進に向けて」)において、競争的資金やその他の外部資金により雇用される博士研究員が約半数を占めている現状(図7)を踏まえ、競争的資金等の評価項目に人材育成の実績を盛り込むこと、職務専念義務の考え方を見直すこと、若手の博士研究員を雇用する際のガイドラインを策定することを提言した。

○ そもそも、政府の公的研究費は、研究成果のみならず、我が国の未来を担う研究者を育成するという重要な意義や、研究プロジェクトの中で育てられた人材を通じて研究成果を社会へ還元するという意義を有している。さらに、公的研究費で雇用された若手の博士研究員がその後、公的研究機関の研究者はもとより、企業等で活躍する人材となるためには、新たな道を切り拓く自由な発想と幅広い視野を身に付ける必要があり、このためには、異分野や異業種との交流などを推進することも有効である。

したがって、政府の公的研究費は、優秀な若者が希望を持って積極的に科学技術の道を選択する好循環をもたらし、広く社会で活躍できる能力が養われるように運用することが求められる。 

○ 第4期科学技術基本計画(平成23年閣議決定)においても、科学技術を担う人材の育成について、「国、地方自治体、大学、公的研究機関及び産業界は、互いに協力して、博士課程の学生や修了者、ポストドクターの適性や希望、専門分野に応じて、企業等における長期インターンシップの機会の充実を図るなど、キャリア開発の支援を一層推進する」ことや、研究開発課題の評価において、「研究開発活動に加えて、人材養成・・・等を評価基準や評価項目として設定することを進める」ことが明記されている。(参考資料4) 

○ 人材委員会としては、これまでの審議を踏まえ、若手の博士研究員が国内外において多様なキャリアパスを確立することができるよう、文部科学省、公的研究機関や研究代表者に対し、以下のような組織的な取組を行うことを求めるものである。

  

Ⅲ. 文部科学省及び公的研究機関に求められる事項 

1.文部科学省の公的研究費の公募要項等に反映する事項

 文部科学省においては、公的研究機関や研究代表者の取組を促すため、各事業の目的や特性に応じて対応可能なものから、今後新たに公募する事業の公募要項や評価基準に以下の事項を盛り込むことが求められる。 

① 公的研究費により若手の博士研究員を雇用する公的研究機関及び研究代表者に対して、若手の博士研究員を対象に、国内外の多様なキャリアパスの確保に向けた支援に積極的に取り組むよう公募要項等に記載する。

各事業の申請書には、公的研究費により雇用する若手の博士研究員に対する多様なキャリアパスを支援する活動計画(以下「キャリア支援活動計画」という。)(例:機関が行う企業等と協働して行う講義、長期インターンシップ、企業交流会、カウンセリング等への参加の推奨、異分野を含めた研究活動への主体的な参加の推奨など)を記載することとし、審査の際に確認する。(米国NSFの取組例は参考資料5を参照) 

② 若手の博士研究員の能力開発に要する経費は、研究活動を支える基盤的な経費であるとの考え方に基づき、上記の申請書に記載したキャリア支援活動計画に基づく若手の博士研究員の活動の一部を、研究エフォートの中に含めることができることを記載する。 

③ 中間評価や事後評価においては、各事業の目的や特性に応じて、上記のキャリア支援活動計画に基づく取組状況や若手の博士研究員の任期終了後の進路状況を報告させ、プラスの評価の対象とすることを記載する。

また、評価に当たっては、研究活動の妨げにならないよう、若手の博士研究員が公的研究機関(雇用主である機関以外の公的研究機関を含む)の取組(例:企業等と協働して行う講義、長期インターンシップ、企業交流会、カウンセリング等)に参加する場合には、その取組を研究代表者が直接行うキャリア支援に代わる取組として、プラスの評価の対象とすることもできることを記載する。 

2.公的研究機関や研究代表者に求められる取組 

(1)公的研究機関に求められる取組 

公的研究機関においては、若手の博士研究員について、国内外の企業等への多様なキャリアパスの確保を組織的にサポートするため、各公的研究機関が雇用する若手の博士研究員の人数等の状況に応じて、以下の取組を進めることが求められる。 

①機関の長が、若手の博士研究員の多様なキャリアパスの確保の支援に取り組む方針を公表する。

②若手の博士研究員の現状や任期終了後の進路状況を把握し、公表する。

③若手の博士研究員の多様なキャリアパスの確保を支援するため、例えば、以下のような取組を推進し、若手の博士研究員へ周知する。 

<取組の例>

(ア) キャリア支援に関する専門的知識や企業勤務経験、産業界や地域との人的ネットワークを有する専門的な職員・教員を配置して、企業等への多様な就職口の開拓を行う。専門部署を設置することも考えられる。

(イ) 企業と協働して、若手の博士研究員向けの講義やセミナー、長期インターンシップ等の機会を提供する。

(ウ) 企業と若手の博士研究員との交流会等によるマッチング、カウンセリングの実施や、例えばOB や共同研究先など、企業の情報や人脈を提供する仕組みを構築する。

(エ) 研究代表者に対し、研究倫理教育と同様に、多様なキャリアパスの確保に向けた支援の必要性について理解を深めるための講習を実施する。 

④研究代表者に対して、若手の博士研究員の多様なキャリアパスの確保に向けた支援を行うよう促す。また、研究代表者の人事評価や、新たに採用する場合の選考においても、若手の博士研究員に対するキャリアパス支援の実績が評価されるよう配慮する。

  

(2)研究代表者に求められる取組 

研究代表者においては、公的研究費により雇用される博士研究員に対し、国内外の企業等への多様なキャリアパスを確保できるよう、以下の取組を進めることが求められる。 

① 若手の博士研究員と任期終了後のキャリアパスについて意思疎通を図り、企業への就職を含めた多様なキャリアパスに挑戦できるように配慮する。

② 若手の博士研究員の任期終了後の多様なキャリアパスを確保するために、例えば、機関の取組(例えば、上記(1)③の(イ)(ウ))の参加を推奨することや、異分野も含めた研究活動への主体的な参加を推奨するなど、若手の博士研究員自らが行う活動を支援する。

③ 若手の博士研究員の進路状況を、機関と協力して把握する。

  

Ⅳ.その他 

○ 第4期科学技術基本計画においては、「国は、優秀な学生が安心して大学院を目指すことができるよう、RA(リサーチアシスタント)などの給付型の経済支援の充実を図る。これらの取組によって『博士課程(後期)在籍者の2割程度が生活費相当額程度を受給できることを目指す』という第3期基本計画における目標の早期達成に努める。」とされている。

このことを踏まえ、文部科学省においては、公的研究費の公募要項等に、博士課程(後期)学生をリサーチアシスタント(RA)として雇用する場合は、経済的負担を軽減する観点から、給与水準を生活費相当額とすることを目指しつつ、労働時間に見合った適切な設定とすることを推奨する旨を記載することが求められる。 

○ 公的研究機関においては、本基本方針の対象とならない博士研究員(※)についても、異分野や企業等の異業種との交流が重要であることに鑑み、各公的研究機関が自主的に行う取組(例えば、上記Ⅲ.2.(1)③の(イ)(ウ))に参加できるよう、配慮することを期待する。

※ 本基本方針の対象とならない者の例:

・ 日本学術振興会の特別研究員(PD 等)

・ 運営費交付金などの公的研究機関の自主財源により雇用される博士研究員

・ 40歳以上の博士研究員

○ 文部科学省の公的研究費を獲得している企業においては、本基本方針に基づき、公的研究機関が行う若手の博士研究員に対するキャリアパスの確保の支援に協力することを期待する。 

○ 本基本方針は、文部科学省以外の府省が所管する公的研究費においても、各事業の目的や特性に応じて導入されることを期待する。

Proudly powered by WordPress   Premium Style Theme by www.gopiplus.com