秋入学、採用時期「見直す」6割 主要100社調査『朝日新聞』2012年3月9日付

『朝日新聞』2012年3月9日付

秋入学、採用時期「見直す」6割 主要100社調査

 東京大学などが秋入学への移行を検討し始めたことを受け、朝日新聞社が国内の主要100社に新卒採用での対応を聞いたところ、6割の企業が採用時期を見直すと答えた。現在は春採用が中心だが、秋採用の枠を設けたり、応募を随時受け付ける通年採用に切り替えたりすることを検討している。大学側の準備が順調に進めば、採用時期の分散化が進みそうだ。

 東大が1月、京都大や東京工業大、早大、慶大など11大学と秋入学の協議を始めると表明したことを受け、2月に調査した。秋入学が広がった場合、採用時期を「見直す」とした企業は、61社にのぼった。

 このうち27社は秋採用の新設や拡充を検討していると回答した。現状では、秋採用の対象は海外の大学を卒業した日本人留学生や外国人学生が中心で、採用規模も小さい。その枠を広げ、「春と秋の2回、本格採用する態勢を整えたい」(電機)との声が、海外で事業を拡大するメーカーなどから多く上がった。

 通年採用の導入を検討するという回答も14社あった。「常に門戸を開いておくことで、優秀な学生を獲得する機会を増やす」(化学)狙いからだ。

 もっとも、秋入学自体の賛否を問うと、「賛成」は42社、「反対」は1社で、「わからない・無回答」が57社と最も多くを占めた。

 秋入学について産業界には、海外展開する企業を中心に「留学する学生が増えグローバル人材の育成が進む」(金融)という期待が大きいが、一方で「入学を半年ずらしただけで国際化が進むとは思えない」(建設)、「入学までの半年間(ギャップターム)が無駄な時間になる」(外食)との懸念も根強いようだ。

 秋入学の議論が有名大学が中心となって進んでいるため、「(採用も)歩調を合わせざるを得ない」(電機)との声もあった。

 このほか「採用を見直す考えはない」とした企業は22社、未定・無回答は17社だった。「大学の足並みがそろうか不透明」(小売り)、「採用回数を増やすとコストもかさむ」(鉄鋼)といった理由が目立った。

■分散化に弾みも

 東大などが検討する秋入学移行は、春の一時期に集中していた新卒採用を大きく変える可能性がある。

 多くの企業は、毎年4月に一斉に試験や面接などを始め、まとまった数の内定者を短期間で確保する「一括採用」を行ってきた。

 一括採用は主に新卒学生を対象としたもので、学生にとっては、今は就職の最大の好機は人生で一度だけの状態だ。経済の低迷とともに、就活に失敗して心を病む学生も増え、一括採用は批判の的になっていた。

 大学が秋入学に移行し、企業が秋採用や通年採用を拡大すれば、春に偏っていた採用時期の分散につながる。選考試験を受ける機会が秋や冬にもあれば、学業に集中できる時間が増えるなど、就活の時間的なゆとりも生まれそうだ。

 ただ、採用時期の多様化は良いことばかりでもない。大手企業の採用時期が分散すると、大手を目指し続ける学生が増え、知名度に乏しい中堅・中小企業の学生集めはいっそう苦しくなりそうだ。大学側からは「チャンスが広がったと勘違いし、就活が長期化する学生が増えるのでは」と心配する声も出ている。

 通年採用が元々、定着している転職者など中途入社の人材と、新卒者が比べられるようになり、「学生の就職率がさらに悪化しかねない」(就職支援会社)との指摘もある。秋入学の議論では、企業の採用の変化に伴う混乱を想定し、大学のキャリア教育を充実させるなどの対策も重要になりそうだ。(本田靖明、岡林佐和)

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