秋入学、議論一気に加速 同一モデルから転換迫る『日本経済新聞』2012年2月23日付

『日本経済新聞』2012年2月23日付

秋入学、議論一気に加速 同一モデルから転換迫る

 「今後、大学の入学時期に関する国民的な議論が高まってくると考えられる。本学も早急に検討を開始する必要がある」

 東京大が秋入学への全面移行を検討すると発表してから3日後の1月23日。千葉大の役員打合会で配られた文書は、斎藤康学長の危機感がにじみ出ていた。その場で、学内に検討委員会を設け、3月に方向性を定め、年内に最終報告を出すことを決定。2月10日に初会合を開いた。

千葉大学は委員会を設置し秋入学の検討を始めた(10日、千葉市)

 動いたのは千葉大だけではない。九州大(6日)や一橋大(15日)などの有力大が競うように検討会議を発足。日本私立大学連盟は加盟123大学に緊急アンケートを実施した。

 中曽根康弘首相(当時)が主導した臨時教育審議会の提言から四半世紀。社会を直撃した“秋入学ショック”で、過去に何度も議論されながら普及しなかった構想が一気に現実味を帯びだした。

有力校も温度差

 仕掛け人の浜田純一・東大学長は、正式発表に向けて周到な準備を進めてきた。

 発表の1カ月以上前の昨年12月8日。学内懇談会の中間報告案を受け取ると、旧帝大や一橋、筑波、東京工業、早稲田、慶応の有力11大学に方針を伝え、4月に発足させる協議会への参加を呼びかけた。年明けには直接出向いて説明した。

 ただ、協議会の議論が思惑通りに進む保証はない。「歓迎すべき提言」(清家篤・慶応義塾長)、「社会が大学教育を考える契機をつくった」(有川節夫・九州大学長)――。総論は賛成でも、各論になると温度差が出る。一橋大は春に入学させ、本格的な授業は秋から始める独自案を検討。橋本周司・早稲田大副総長は「全面秋移行は、多様性確保の面から慎重に考えたい」と語る。

 有力校だけの議論に反発も強い。谷口功・熊本大学長や池田幸雄・茨城大学長らは「国立大学協会で議論を」と口をそろえる。秋入学組とそれ以外とに大学が二極化するという懸念も根強い。

 就職活動、ギャップターム(高校卒業から入学までの半年間)、国家試験、学生の負担増……。各論が割れるのは、秋入学の実現までには克服すべき課題が山積するからだ。歓迎を表明した政府や産業界は環境整備に協力する責任がある。

国の決断カギ

 最大の問題は就職だ。日本大の留学担当者は「グローバル人材と言いながら企業は必ずしも留学経験を評価しない」と漏らす。通年採用の一般化や評価基準など実のある採用方法の見直しは急務だ。

 公務員や医師などの国家試験の実施時期の見直しは国の決断一つ。「奨学金や海外留学費用なども支援する気がどこまであるのか」。国家戦略会議で秋入学の検討を指示した野田佳彦首相に対し、浜口道成・名古屋大学長は問いかける。財政事情が厳しい中、鍵を握るのは国の覚悟だ。

 大学自身の課題も多い。「英語の授業を増やしたくても教員の語学力がネック」(増田寿男・法政大総長)。教員とカリキュラムが国際水準に達していなければ、国際化は絵に描いた餅だ。

 何より大きいのは横並び体質。東大は「全大学が秋入学に移行する必要はない」と言うが、「実施するなら一斉に」という声は収まらない。

 多くの大学は、東大を頂点とした護送船団の中で安住し、「できない理由」を探しては改革を先延ばししてきた。だが、進学率が50%を超え、800近い大学がひしめく時代に同一モデルで生き残れるはずもない。

 大衆化、少子化に続く国際化という「第三の荒波」を浴びようとしている大学は自らの立ち位置を決めねばならない。秋入学をめぐる大学の自己改革が、グローバル時代の国を形づくるきっかけとなる。

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