福島に研究拠点、復興原動力に 産総研や会津大計画に地元期待 『日本経済新聞』2012年2月18日付

『日本経済新聞』2012年2月18日付

福島に研究拠点、復興原動力に 産総研や会津大計画に地元期待

 福島県に東日本大震災からの復興と新産業創出に向けた研究拠点が相次いで誕生する。産業技術総合研究所(茨城県つくば市)が2014年春をメドに再生エネルギー関連の大型施設を開設。今夏には会津大学(会津若松市)が富士通などとITを活用した復興支援策の研究センターを開く。最先端の研究陣とともに新たな成長戦略を描こうと地元の産学からの期待も高まっている。

■投資額100億円

 地元からの期待が大きい産総研の研究拠点は郡山市内の約5万平方メートルの敷地に設ける。研究棟や工場棟、太陽電池の試作ラインなどを整備し、太陽光や風力発電などの技術開発に取り組む。建設費と研究費を合わせた投資額は約100億円を見込む。

 文部科学省も研究に加わり、12億円を予算化。産総研のほか大学や企業などの研究者ら計100人が参加する予定。同省と経済産業省系の産総研が大規模な研究で連携するのは珍しいといい、まさに国を挙げての取り組みになる。

 産総研は最重要と位置付ける太陽電池に関して、複合部品(モジュール)の耐久性向上や折り曲げ可能な電池などの先端技術を持つ。風力発電や地中熱・地熱利用など幅広い研究にも取り組む計画だ。

 日本大学工学部(郡山市)の出村克宣学部長は「地球との共存を模索するロハスの工学という学部の主題と合う。ぜひ連携したい」と声をあげる。福島大学は産総研と施設の相互利用や人材育成など広範な連携をめざす協定を結んだ。

 産業界の期待も大きい。金属部品加工の林精器製造(須賀川市)の林明博社長は「一緒に技術開発したい」と期待をかける。福島県商工会連合会も「研究者らとの交流が広がれば、地域企業などへの波及効果も出てくる」と歓迎する。

■参加希望相次ぐ

 会津大学が富士通、アクセンチュアなどと共同で開設する「復興支援センター」(仮称)への参加を希望する地元企業も相次いでいる。設立を発表した1月6日以降、問い合わせは毎週10件前後に達し、これまでに同大を訪れた企業も20社を超えた。「アプリの開発や人材育成で連携を働きかけてくる」(会津大の岩瀬次郎・産学イノベーションセンター長)という。

 参加する大手企業が技術者を派遣し、同大や地元企業などと技術情報を共有。ITを生かした復興支援策の研究に取り組み、福島県南相馬市で進む環境配慮型都市(スマートコミュニティ)構想などに役立てる。

 ITベンチャーのEyes,JAPAN(会津若松市)の山寺純社長は「ベンチャーが大企業に技術協力できれば双方にプラス」と話す。会津大は産総研の新拠点とも連携したい意向。先端研究機関と大企業、ベンチャーが連携して電力制御技術などを生み出し、アジアへの輸出などを想定する。

 福島県内ではこのほかにも、福島県立医大が中心になる放射線医学や、除染と放射線モニタリング、医療福祉機器の研究開発などに取り組む拠点の開設が検討されている。

緊密な交流が不可欠

 新エネルギーや環境配慮型都市づくりは国内外の大企業が注目するテーマだ。産総研や会津大の研究拠点にも日本を代表する企業が参加する見通しで、地元の中小企業への波及効果がどこまで見込めるかは未知数だ。

 東邦銀行系の福島経済研究所の斎藤博典副理事長は「研究段階から地元企業が参加できるようにしてほしい」と注文。電子部品製造のコンド電機(福島県浅川町)の近藤善一社長は「敷居を低くしてくれれば、要求には粘り強くついていく」と話す。

 産総研は「すぐれた技術や新材料があれば持ち込んでほしい」(三戸章裕・太陽光発電工学研究センター副研究センター長)と福島の産業復興のためにも地域企業との連携に積極的。会津大学も中小企業の技術者を招いて公開講座を開くなど人材育成に力を入れる。

 それでも、世界がしのぎを削る競争分野で地域の中小が存在感を発揮するのは容易ではない。受け入れ側の研究拠点と中小企業の双方が互いの技術や情報を持ち寄るなど、緊密な交流を図る仕組みづくりも重要になりそうだ。

(郡山支局長 佐藤敦)

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