「相当の退学覚悟を」評価基準骨子案、大学の質向上促す『朝日新聞』大学取れたて便2012年2月15日付

『朝日新聞』大学取れたて便2012年2月15日付

「相当の退学覚悟を」評価基準骨子案、大学の質向上促す

 これまで日米の大学生の学習時間の比較などを通じて、学士課程の教育をいかに充実させるかを検討してきた中央教育審議会の大学教育部会。学生の学習時間を確保するための方法や大学評価制度の見直し、大学の教学面のガバナンスをどう確立するかなど、議論は多岐にわたった。2月13日の会議で示された、3月末にまとめられる予定の報告案骨子案が興味深い。大学分科会会長の前慶應義塾大学塾長・安西祐一郎氏は「相当な退学者が出ることを覚悟するつもりで評価の基準をつくらなければならない」と述べ、大学教育の質の低下に対する危機感を強調した。

■「学生であるための資格」明示を

 骨子案は

①学士課程の実質化(学生の学習時間の確保と学習密度の向上)

②全学的な教学マネジメントの確立

③評価制度の見直し(教育研究成果を重視した評価)

 の3項目で構成されている。

 ①では大学の教育活動を示す情報を発信するための共通のデータベース「大学ポートレート」を整備すること、学生の学習到達度をはかる方法や学習行動を調査する方法の研究開発を進めることなどが盛り込まれた。②では具体的な方策には言及がなかったが、今夏までに具体的な提言をまとめることを示した。③ではこれまでの教育目的や教員数など教育研究の環境を中心とした評価から、教育研究活動の成果の把握やどのように改善したかということについて評価の力点を移すことを強調している。

 議論では、安西氏が「各国が高等教育戦略に力を入れているが、日本は全体的に沈んでいる。学習到達度や勉強させる仕組みなどを評価する、基準の大枠を決めるのはこちらだ」との見解を表明。「根拠があるわけではないが」としつつ「学生の2割」という数字を挙げて「相当の退学者が出ることを覚悟するくらいで評価の基準をつくらなければならない」「大学の機能別に基準をつくり、『そこまで達しないと学生ではないよ』と示したい」などと訴えた。これに触発されたかのように、ほかの委員からも「いままで世間話で『学生は勉強しない』と言われてきたが、それを日本の大学の問題としてとらえるべきだ」などの意見が出た。またガバナンスに関連して、「各学部が動かないと評価が定まらない、ということにならないよう、学部でできないことを学長が準備して動かさなければならない」と学長の役割に期待する声も上がった。

■予習を前提とした授業再編

 議論は全体として、学士課程4年間の教育の質を上げるために学生の学習時間にも着目して、予習などによる自宅学習の時間を増やすことや、そのための大学側の教育方法などを評価で支えるという方向に進んでいる。それに必要なのが、大学の教学の情報を公開して比較できる仕組み「大学ポートレート」の整備だ。

 学習時間を増やすには、大学の教員が授業計画をたてて予習すべきことを的確に学生に指示し、それを踏まえた授業をつくらなければならない。一定の自宅学習を前提とすれば、いたずらに授業科目を増やすことは難しくなり、整理統合する必要も出てくる。それらを考えると、教員が互いに授業科目の水準などについて話し合い、共通理解にたつことが重要だ。教学ガバナンス・教員・学生が相互に理解し合うことで、教育の質が確保されることになる。

 一方で、学習時間を増やすことが社会的評価につながっていかなければ、大学内部での自己満足で終わってしまう。いかに大学教育が世間に理解されるか、という点まで想定しなければならない。

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