大学の秋入学 社会全体で広く議論を『秋田魁新報』社説2012年2月4日付

『秋田魁新報』社説2012年2月4日付

大学の秋入学 社会全体で広く議論を

 東大の懇談会が、春入学を廃止し秋入学に全面移行することを検討すべきだとする中間報告を発表した。早ければ5年後の導入を目指し、他大学にも足並みをそろえることを呼び掛けている。これをきっかけに、県内の大学でも秋入学を検討する動きが広がってきた。

 秋入学で卒業も秋になった場合は、新卒者の4月採用の社会慣行から外れて就職が困難になる可能性や、学生の負担増などのデメリットも指摘されている。各大学は秋入学のメリット、デメリットを十分検討し、企業や自治体などの理解と協力度も勘案しながら導入の是非を判断するべきだろう。

 秋入学導入の理由として中間報告は、欧米では秋入学が一般的な中、現行の春入学制度が日本人学生の海外留学や外国人留学生の受け入れの制約になっていることを指摘する。本県でも県立大とノースアジア大は同様の理由で「秋入学はいずれ必要になる」としており、秋田大は4月以降に学内に検討会を設置する見通しだ。

 文部科学省の集計では、2009年度に海外留学した日本人は前年より7000人近く減り約6万人だった。同省は「長引く不況と就職活動の早期化」が理由と分析している。不況の影響や厳しい就職状況への対応が不十分なまま秋入学を導入すれば、混乱を招きかねない。

 国際教養大は春入学が中心だが、04年の開学時から一部学生の秋入学も併せて実施している。このように入学コースを複線化すれば大学としては多様な学生を集めることができ、受験生にとっては選択肢が増えて望ましい面もある。

 しかし、秋入学一本にする東大の案だと学生には高校卒業から大学入学まで半年間、必ず空白期間が生じる。さらに、大学を秋に卒業してから就職するまでの半年も同様に空白になる可能性がある。報告では、入学前のこの期間にボランティアやインターンシップ(就業体験)、国際交流などの体験活動に取り組むことを想定するが、保護者からの仕送りやアルバイトで生活する学生にとっては負担が大きいだろう。

 企業や官公庁の新卒者採用が4月だけのままならば、秋卒業で就職活動に不利が生じる恐れもある。県内の大学関係者からも「学生の就職を見据えれば、企業も秋採用に移行する必要がある」などと、社会の慣行や制度を変える必要性を指摘する声が聞かれる。

 こうした懸念を払拭(ふっしょく)するには、奨学金制度の拡充だけでなく新卒者の採用時期など社会全体の仕組みについて広く議論することが必要だ。県内でも大学関係者だけに任せずに経済界など各界が知恵を集め、大学の在るべき姿を考える好機としたい。それは人材育成や社会貢献に密接に絡む問題であり、本県の中長期的な成長戦略を練ることにもつながるはずである。

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