歓迎と困惑…三重県内で反応様々 東大の秋入学以降方針『朝日新聞』2012年1月29日付

『朝日新聞』2012年1月29日付

歓迎と困惑…三重県内で反応様々 東大の秋入学以降方針

 東京大学が秋入学に全面移行する方針を打ち出した。三重県内の留学生や経済界からは歓迎の声が上がるが、大学側は一様に戸惑いを見せる。地方の大学にとって実現のハードルが高い割に、大きなメリットが見いだせないというのが本音のようだ。

■「国際化に対応」 留学生・経済界は好意的

 23日、津市の三重大で、ドイツ、モンゴル、タイなどからの留学生11人が机に向かっていた。国際交流センターの日本語の授業だ。終了後、東大の秋入学について意見を聞くと、「時間が無駄にならない」「桜は見られないけど、紅葉もいい」と好意的な反応が相次いだ。

 中国・吉林省の延辺大から昨年秋に来た豆亜娟さん(21)は「日本の大学院に入りたいのでうれしい。留学生が増えると思う」。リトアニアの首都にあるビリニュス大から昨秋に来たエンチューテ・ガビヤさん(22)は「一部の大学だけ秋入学になったら、そこを避ける日本人も出るかも」と心配するが、「私たちにとって便利です」と話す。

 経済界からも歓迎の声があがる。県商工会議所連合会の井ノ口輔胖(すけひろ)専務は「世界の趨勢(すうせい)に合わせるべきだ。卒業時期が変わるかもしれないが、県内企業は随時、中途採用しており、大きな影響はないだろう」。県高校長協会長の川本健(きよし)・桑名高校校長も「グローバル化に対応する教育として一つの方法だと思う。卒業後のフォロー態勢を考えながら、事態の推移を見守りたい」と前向きだ。

 三重大生物資源学部2年の龍田和弥さん(19)も「海外に対応して国際化するのはいいことだと思う」と歓迎する。ただ、入学前の半年間については「時間の無駄だと思う。世界に目を向ける人はいいが、大部分はそうじゃない。僕だったら、たぶんバイトすると思う」と話した。

■コスト面など壁 各大学側は慎重姿勢

 一方、三重県内の各大学は消極的だ。留学生の大幅な増加が見込めないことや、移行への壁が大きいことなどが理由に挙がる。

 239人の留学生を受け入れる三重大は、すでに大学院で秋入学を実施している。内田淳正学長は「反対はしないが、留学生のほとんどが大学院に入るので、すでにニーズには対応できている」と指摘する。

 入学までの半年間で学生が留学など国際経験が積めるという指摘については、「入学前で誰が責任を持つのか。秋入学にしたら大学が変わるというのは考え過ぎ。グローバル人材に欠かせない英語力は、三重大にいても磨ける」と話す。

 十数年前から中国やベトナムなどで現地入試を実施する鈴鹿国際大は、数年前に秋入学を検討したが、コスト面などで実現できなかった。中野潤三学長は「規模が小さく、経営の問題もある。天下の東大が言ったから合わせます、とはならない」と言う。四日市大の宗村南男学長も「地方公務員志望の学生が多く、採用試験がどうなるかなど社会全体の動きを見極めなければならない」と慎重姿勢だ。

 県内の大学は、特色ある地方の中小規模大として、マンモス校や旧帝大にはない、それぞれの長所や事情を抱えているのが実情だ。三重大の内田学長は「東大や旧帝大主導でやるのではなく、国立大学協会でまとめていれば、より実現性は高くなった。私らからみると、やり方がおかしいのではないかと思う」とこぼす。(高浜行人)

 〈東大の秋入学移行〉 入学時期を検討してきた東大のワーキンググループが今月、海外で主流の秋入学への全面移行を求める中間報告をまとめた。入試時期は従来通りで、合格から入学までの半年間の使い方として、研究やボランティア、国際交流などを例示する。東大は今後、旧帝大などと意見交換し、秋卒業を想定して企業と採用についても協議する。早ければ5年後に導入したい意向だ。

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