『河北新報』社説2012年1月24日付
東大秋入学/右倣え避け多角的な検討を
東京大が秋入学に全面移行するとした中間報告を発表した。東北大をはじめ旧帝大と早大、慶大など11大学と協議会を発足させ、就職時期とのずれ、3月の入試合格から入学までの半年間(ギャップターム)をどう過ごすかなどの課題を話し合うという。
浜田純一東大総長は「単独では移行しない」と明言し、議論をリードしつつも他大学と足並みをそろえたい意向だ。早ければ5年後に実現する道筋を描いている。各大学も議論の誘いに乗るところが多い。
これだけの顔ぶれが秋入学を検討するとなれば、流れが一気に進む可能性がある。最大の狙いは、国際的な標準に合わせて留学生の受け入れ、派遣をスムーズにすることにより、大学間競争を勝ち抜くことにある。
そのために日本人の美意識に根付く春入学を変えるというのはしっくりこない。感覚が古いと言われればそれまでだが、企業の4月一括採用から外れて就職できなかったり、親の仕送り負担が増すなどの不都合をどう考えるのか。
旧帝大など教員、職員がたくさんいて財務力のある大学は、秋移行による業務の複雑化、仕事量増大に対応できるだろう。経済界も自動車、流通、製鉄など海外展開している大手は既に「通年採用」を行い、アジアの学生を大量に採用している。
このため経団連などからは評価の声が聞かれる。外国語に通じ、海外の暮らしを経験した学生が入社することは、採用する企業にとっても大きなメリットがあると捉えているようだ。
唐突に見える東大の呼び掛けも実は周到に練り上げられ、実現可能と読んでいた節がある。
ぬるま湯体質とされる大学界に水を浴びせ、改革モデルを示した姿勢は認めたいが、大部分を占める小規模な大学、日本の部品技術を支えてきた中小企業の採用計画への影響まで考慮しないと混乱するのではないか。
教員を養成する教育大は、小中高校の入学時期を一緒に変えない限り、秋移行は難しい。東大が投げた一石は、教育界全体に波及するものなのだ。
入学前のギャップタームで例示したのは、ボランティア活動、語学留学、企業インターンシップなど。「受験競争で染みついた偏差値重視の価値観をリセットできる」と強調している。
しかし、東日本大震災で被災地に入っているボランティアをみると、主体的に選択行動している学生ほど多くを学び取っている。最初から単位に組み込むなどして組織的にプログラム化し、仕向けるような性格のものなのだろうか。
大学間の競争と生き残りへの挑戦は必至の時代だが、秋入学は有力な大学が先導し、結局はそれ以外も追随するという従来のパターンを踏む恐れがある。
また右へ倣えでは本質は変わらない。国立大法人化といった一連の改革は、それぞれの個性と多様性を高めることが求められていたはずだ。冷静で慎重な論議を求めたい。