東大、国際競争に危機感 就職・国家試験の改革課題『日本経済新聞』2012年1月18日付

『日本経済新聞』2012年1月18日付

東大、国際競争に危機感 就職・国家試験の改革課題

 東京大学の「入学時期の在り方に関する懇談会」は中間報告(まとめ)で、秋入学への全面移行を提言した。国際的で高い課題解決能力を備えた人材を育てる狙いで、偏差値重視の価値観から脱却した新たな教育システムの構築も提唱する。学内での意思統一に加え、他大学が歩調を合わせるかどうかが焦点になる。 

 文部科学省によると、世界215カ国の7割は秋入学。4月入学はたった7カ国で、中間報告は時期のずれが「学生や教員の国際交流を制約している」と強調。実際に東大の学部段階の外国人留学生は昨年5月時点で全学部生の1.9%にあたる276人、留学中の日本人学生は同0.4%の53人にとどまる。

 国際性は大学の評価に直結する。世界の大学ランキングで東大は30位。アジアでは首位だが、留学生比率などの項目を重く見る傾向が強まっており、今後は順位を落とす可能性もある。

 世界の有力大は優秀な学生や教員の獲得にしのぎを削っている。中間報告は「東大が実力と存在感を維持できるか強い危機感を禁じ得ない」とし、今のままでは大学間の競争を乗り切れないとの認識を鮮明にした。

 現在の高校生は受験のための勉強が中心で受け身の学習姿勢が目立ち、大学で求められる「自ら課題を発見する学び方」が身に付いていないとも指摘。高校卒業から入学までのギャップタームに「学ぶ姿勢を転換させるインパクトある体験が必要」とした。秋入学移行は「よりグローバルでタフな人材」を育成する切り札となる。

 ハードルは高い。まずは各学部の支持を得ることが欠かせない。中間報告は「各部局で建設的な議論が交わされ、適切な判断が主体的に下されることを強く期待する」とくぎを刺した。

 在学期間が延び、就職や医師国家試験、国家公務員試験などでの不利が解消されなければ、高校生の東大離れが進む可能性もある。打開策は社会全体を巻き込んだ議論を起こし、資金支援や制度改革を進めることだ。

 中間報告では社会の理解を得るため、偏差値重視から多様な体験や個性を尊重する教育システムに転換することを提唱する。新たな価値観では「寄り道」のギャップタームは多様性を高める機会と評価される。受験競争の頂点に立つ東大が率先して入試や教育改革に取り組むことで社会全体の改革を促す。

 一部の有力大では東大に共鳴し、秋入学の検討組織を設ける動きが出ている。中間報告が指摘する通り、検討に時間をかけている余裕はない。

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