秋大医学部問題 真相解明し信頼回復を 『秋田魁新報』社説2011年12月27日付

『秋田魁新報』社説2011年12月27日付

秋大医学部問題 真相解明し信頼回復を

 秋田大医学部が揺れている。医師派遣先の県内民間病院から医学部の現職教授らが現金を受け取っていた上、別の幹部教授には旅費二重受給などの疑いが浮上。大学が二つの調査委員会を設置したのである。調査委は学内の最高審議機関である教育研究評議会内に設けられており、極めて異例。本県医療の重責を担う大学には、一日も早く真相を解明し、納得できる説明をする義務がある。

 現金を受け取ったとされるのは教授と元教授の2人。収賄容疑で書類送検され、不起訴となった。医師派遣への謝礼の趣旨で現金を受け取ったというのが容疑内容。今回の不起訴は「賄賂と認定するだけの証拠が得られなかった」(秋田地検)という嫌疑不十分だ。起訴するだけの証拠はないが、疑いはあるというのが、その意味だろう。2人の疑惑は払拭(ふっしょく)されていないと指摘しておかねばならない。

 現職教授は国立大学法人職員である。一般市民よりも高い倫理が求められ、社会的責任が厳しく追及されるのは当然だ。元教授は現金を受け取った当時、現職の医学部付属病院幹部。現在は退任しているとして、調査委は「ある程度事情を聴くことは必要」との認識だが、その程度の対応では調査結果の信用性に疑問が生じよう。医師の社会的地位を鑑みても、毅然(きぜん)とした対応を取るべきだ。

 医学部教授らの疑惑が特に注目されるのは、その背景に医師派遣の問題があったのではないか、とみられるからである。

 県内の医師不足は慢性化し、「医療崩壊の危機」という言葉さえ陳腐に響く。2004年度導入の新臨床研修制度が医師不足の引き金になったことは再三、指摘されている通りだ。大学の医局を中心とした従来の研修システムとは異なり、新制度下で新人医師は研修先の病院を自由に選択できる。その結果、研修医は都市部の有力病院に集中して、その後もそこにとどまり、医局には戻らなくなった。

 そこで起きたのが、医局の医師減少に伴う派遣先病院からの医師引き揚げである。医局からの医師派遣に頼っていた病院は、引き揚げで医師が不足。しわ寄せを受けた病院勤務の医師は疲弊して開業医などに転じ、その穴埋めのため、さらに大きな負担が他の医師を襲う。この負の連鎖が医師不足の実態だ。

 こうした状況打開のため、秋田大では医学部卒業生の県内定着に向け、地域枠などを設けて定員を増員。県は医師配置適正化計画の策定部会をスタートさせたばかりだ。医療は経済効率だけでは論じられない「公共財」であり、医師不足は一人一人の生命に直結する「命の問題」である。医学部教授らの疑惑は、その対極にあると言えよう。

 疑惑が生ずること自体、本県医療にとってはダメージと言わねばならない。明確で迅速な調査結果の公表と、信頼回復への取り組みを大学は急ぐべきだ。

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