人事院総裁談話 平成23年10月28日 人事院総裁江利川毅

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人事院総裁談話
平成23年10月28日
人事院総裁江利川毅

1 本日の閣議において、我が国の厳しい財政状況と東日本大震災という未曾有の国難に対処するための国家公務員の給与の臨時特例に関する法律案(給与臨時特例法案)の早期成立を期し、人事院勧告を実施するための給与法改正法案は提出しないことが決定されました。

人事院勧告と給与臨時特例法案は、趣旨・目的を全く異にするものであります。国家公務員の労働基本権制約の代償措置である人事院勧告は完全実施するとともに、給与臨時特例法案については別の問題として検討されるべきと考えます。

2 本年3月11日に発災した東日本大震災という未曾有の国難に対処することは、現下の最重要課題であり、その財源確保の一環として国家公務員給与について議論されており、人事院としてもこうした課題の重要性は十分認識しております。東日本大震災という未曾有の国難に対処するに当たっては、平時とは異なって、内閣及び国会において、大所高所の立場から、財源措置を検討することはあり得ることと考えます。

3 国家公務員は憲法第15条で全体の奉仕者と規定されるなど、その地位の特殊性及び職務の公共性に鑑み、その勤務条件の決定については、憲法第28条に規定する労働基本権の一部が制約され、その代償措置として人事院勧告制度が設けられています。したがって、国家公務員給与の改定に当たり人事院勧告を尊重することは、憲法上の責務というべきものです。現行の憲法及び国家公務員法の体系の下で人事院勧告を実施しないことは、極めて遺憾であります。

4 政府は、人事院勧告の実施を見送る理由として、給与臨時特例法案が、「今般の人事院勧告による給与水準の引下げ幅と比べ、厳しい給与減額支給措置を講じようとするものであり、また、総体的にみれば、その他の人事院勧告の趣旨も内包していると評価できること」を挙げています。

しかしながら、労働基本権制約の代償措置である人事院勧告と、厳しい財政状況及び東日本大震災に対処する必要性に鑑み国家公務員人件費を削減するための給与臨時特例法案は、趣旨・目的が全く異なります。

人事院勧告は情勢適応の原則に基づき毎年の官民給与の均衡を図るため俸給表の改定を行うものであるのに対し、給与臨時特例法案は平成25年度までの時限立法として支給額を大幅に減額するものであり、平成26年度からは、今回の勧告による給与引下げが反映されていない俸給に戻ることとなります。

また、人事院勧告の求めている給与構造上のゆがみの是正は、給与臨時特例法案では実現できません。

したがって、人事院勧告は、給与臨時特例法案と趣旨・目的及び内容を異にし、「内包」されるという関係にはありません。

なお、給与臨時特例法案は、現行の法律が定める国家公務員給与の改定の仕組みによらないものであり、また、その国会への提出の経緯をみても、一部の職員団体との合意を重視し、多くの国家公務員の理解を得るための手続は採られておりません。

5 未曾有の国難からの復旧・復興のための財源確保という課題の重要性は十分認識しておりますが、この課題は、労働基本権制約の代償措置である人事院勧告の実施とは別に、内閣及び国会で検討されるべきものと考えます。その場合においても、人事院勧告をめぐる過去の事例や最高裁の判例の趣旨を踏まえたものであることが必要であります。

今後、国権の最高機関であり唯一の立法機関である国会において、人事院勧告制度の本旨を踏まえ、大所高所に立った適切な対処がなされることを切に期待いたします。

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