社説:国家公務員給与 「8%削減」ほごにするな『毎日新聞』社説2011年10月1日付

『毎日新聞』社説2011年10月1日付

社説:国家公務員給与 「8%削減」ほごにするな 

 国家公務員の給与カット問題が混乱している。給与を平均で約8%削減する政府の法案は国会で宙づりになっている。その一方で人事院は11年度年間給与について約0.2%減にとどめる改定勧告を行った。 

 東日本大震災の復興財源対策でもある給与削減がこのまま放置されれば結局は人勧が実施され、法案はほごになるおそれがある。野田佳彦首相が復興増税に国民の理解を求めるのであれば、法案の早期成立に指導力を発揮しなければならない。 

 政府が6月に提出した給与削減法案は13年度まで月給を役職に応じ5~10%、ボーナスを一律10%カットするものだ。年間約2900億円の財源を捻出し復興財源にあてるとしていたが、今国会でも審議は先送りされた。 

 こうした中、人事院は従来の民間給与実態に準拠した方式で算定し、月給を0.23%引き下げ、ボーナスについては据え置く勧告を行った。削減額は120億円にとどまる。もともと人事院は給与削減法案が勧告の頭越しに提出された際、これを遺憾とする見解を公表していた。 

 給与削減法案が成立していない以上、人事院がその職分に基づき勧告を出すこと自体は否定できない。だが、民主党政権はかねて国家公務員総人件費2割削減を掲げ、しかも「官」がまず復興財源確保に努める姿勢を打ち出すことが求められる局面だ。野田内閣はあくまで大幅削減を優先し、法案の成立を追求しなければならない。 

 その一方で、公務員の労働基本権が制約される中で人勧を経ずに給与が削減されることがあくまで特例であることも、制度的に裏付ける必要がある。 

 政府は給与削減法案と同時に、国家公務員に労働協約締結権を認める公務員制度改革関連法案も提出している。同法が成立すると現行の人勧制度は廃止され、人事院に代わり新設される「公務員庁」が労使交渉にあたる。 

 人勧制度は公務員の労働基本権を制約する代償措置だが今回の勧告に見られるように弾力的な給与見直しには限界があり、制度は硬直化している。減額法案を成立させると同時に協約締結権も回復させ、新制度移行の道筋をつけるべきだ。 

 本格復興予算となる第3次補正予算案が審議される次期国会で政府は8%削減か人勧に沿った見直しのいずれかの選択を事実上、迫られる。 

 首相は削減法案と公務員制度改革法案の決着に向け、与野党合意に真剣に取り組むべきだ。給与カットが実現しない責任を与野党がなすりつけあう中で、復興増税だけが着々と進むような事態は願い下げである。

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