切り捨てられた地域医療:日大練馬光が丘病院撤退/中 /東京 『毎日新聞』東京版2011年9月7日付

『毎日新聞』東京版2011年9月7日付

切り捨てられた地域医療:日大練馬光が丘病院撤退/中 /東京

 ◇小児救急に影響大 区内の3分の1担う

 3歳の長男と1歳5カ月の長女を持つ板橋区の女性(33)は日大医学部付属練馬光が丘病院(練馬区)の撤退を7月中旬に新聞報道で知り衝撃を受けた。「本当にどうしようって……。困るとしか言いようがないです」

 女性は長女を同病院で出産。長女にダウン症と心臓疾患などの合併症が見つかり、新生児集中治療室(NICU)に入った。長女は退院後も熱を出したり体調を崩すことが多く昨年の夏は毎週2~3回、同病院の小児科に駆け込んだ。

 「撤退」発表を受け、病院存続を求める署名活動にも参加したが、現状の厳しさは肌で感じる。長女は3歳になれば、合併症の治療が必要になる。4月から産休明けで看護師の仕事に復帰し、会社員の夫(33)と共働きだが、これまで通り働けるかも不安だ。夫は「『なんとか育てられるかな』って思い始めた直後だった。病院という基盤ピースが欠ければ、どう生活を組み立てればいいのか」と声を落とす。

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 今回の撤退で影響が大きいのが小児医療だ。10年度の小児救急患者数(15歳以下)の扱いは区内の5医療機関で2万6519人。光が丘病院では約3分の1の8986人を受け入れてきた。専門医10人に非常勤を加えた20人の陣容は大学病院ならではといえる。それでも、2人態勢で24時間の救急をすると、通常勤務に加え月5回の当直をこなす必要がある。1回の当直手当は5000円にすぎない。

 勤務する小児科の医師は「どんな患者も受け入れる方針だった。医師全員が生活を削ってやってきたんです」という。今後については「病院引き継ぎが始まると、膨大なカルテの整理などの雑務が増え、サービスが滞る可能性がある。(区は)新病院で現在の受け入れ規模を維持するというが、どう考えても無理ではないか」と苦渋の表情を見せる。

 産婦人科も同様だ。09年度に生まれた区民4386人のうち、区内の病院で生まれたのは4割程度で、光が丘病院が扱った新生児は375人。区外の妊婦の出産を含めると年間508件に上る。09年8月からは、検診を地域の診療所で受け、分娩(ぶんべん)は同病院が行う「周産期セミオープンシステム」を採用していた。既に病院は来年2月中旬以降の受け入れ中止を決めている。

 区内で産婦人科のクリニックを営む高見毅司医師は「病院が多い都内で『お産難民』になることはないが、お産の大病院志向が強まるなか、周辺病院にしわ寄せが行き自宅近くで病院を見つけることは難しくなる可能性がある」と予想する。

 

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 病院存続を求め、住人が集めた署名は1カ月余りで1万2000人を超えた。だが、その切実な思いは届くあてを失いつつある。

 〔都内版〕

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