東大、世界競争に危機感 春入学見直しには課題『日本経済新聞』2011年7月1日付

『日本経済新聞』2011年7月1日付

東大、世界競争に危機感 春入学見直しには課題

 東京大学が入学時期見直しを検討する背景には、秋入学というグローバルスタンダードに合わせないと世界の大学間競争に後れを取るという強い危機感がある。ただ、日本人の生活様式に定着している春入学を一気に切り替えるには課題も多い。

 東大によると、2010年5月時点で、外国人留学生は2872人いるのに対し、外国へ留学中の東大生は301人。外国人留学生は01年から約800人増えたが、外国への留学生は一進一退状態が続く。特に外国へ留学する学部学生はわずか48人で、「タフな東大生の養成」や「グローバルキャンパスの形成」を行動シナリオに盛り込む東大の悩みのタネだ。

 一見、順調な外国人留学生の受け入れでも、全学生の7.6%(09年)にすぎず、シンガポール国立大学(30%)、オックスフォード大学(29%)、ケンブリッジ大学(27%)、マサチューセッツ工科大学(27%)など世界の有力大学に比べ明らかに見劣りする。

 国際化の遅れの一因が、世界の潮流に反する春入学・春卒業だという指摘は以前から根強い。例えば一学期の短期留学をしたくても学期の開始・終了時期が異なるため、無駄な時間が必要になる。留学生が増えないのは、若者の“内向き志向”だけが要因ではない。

 秋入学のもう一つの狙いは合格(高校卒業)から入学までに生じる“空き時間”を、日本版ギャップイヤーとして活用できることだ。英国では高校を卒業後、翌年の大学入学までの16カ月間を社会見聞を広げる猶予期間として活用するギャップイヤーが定着している。ギャップイヤーを経験すると進学目的が明確になり、学習に対する意欲が高まり中退率なども下がるとされる。

 ただ、「入学式は桜が満開の時期」という季節感は日本社会に深く定着しており、これまでも秋入学の必要性が指摘されながら、定着しなかった一因となっている。企業・官庁の採用や国家試験も春入学・春卒業を前提に日程が組まれており、東大だけでは対応しきれない課題も多い。

 ギャップイヤーも、社会体験やボランティア活動、短期海外留学の受け皿が確保されなければ、“無為の時間”を生むだけで終わりかねない。

 具体化までに検討すべき課題は山積してはいるが、この問題が日本の大学の国際化のために避けて通れない課題であることは間違いない。他大学とも連携しながら実のある議論を期待したい。(編集委員 横山晋一郎)

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