【衝撃事件の核心】波紋呼んだ入試問題流出 結末は「単純カンニング」 MSN産経ニュース配信記事 2011年5月14日付

MSN産経ニュース配信記事 2011年5月14日付

【衝撃事件の核心】波紋呼んだ入試問題流出 結末は「単純カンニング」

 京都大、早稲田大など有名大学の今年度入試で行われた「不正行為」が全国に波紋を呼んだ。試験時間中にインターネットの質問サイト「ヤフー知恵袋」に問題を投稿し、ユーザーから得られた回答を答案用紙に書き込むという前代未聞のカンニング法。京都府警などが偽計業務妨害容疑で捜査する事件に発展した。「バレること前提の愉快犯」「複数の受験生の組織的犯罪」などと犯人像についてさまざまな憶測を生んだが、結局、捕まったのはたった1人の浪人生。大学に入りたい一心で、手慣れた携帯電話操作により不正を行っていたのだった。 

■カンニングは「犯罪」

 「厳正かつ公正であるべき、わが国の入試制度の根幹を揺るがす重大事件」

 2月27日、京大の2次試験で試験時間中の問題投稿が発覚したことを受けて行われた緊急記者会見。会場の会議室で、大勢の報道陣を前に、塩田浩平副学長は暗い表情で口を開いた。

 事件は前日の26日、サイトの閲覧者からの大学関係者への問い合わせで発覚し幕を開けた。問題が投稿されたのは、25日に行われた文系の数学6問と、26日に行われた文系、理系共通の英語2問。いずれも試験時間中に、「ヤフー知恵袋」に「aicezuki」のハンドルネームで投稿されていた。

 「京大入試で試験問題が流出したらしい」。大学が事実を把握する前に、短文投稿サイト「ツイッター」ではすでに騒ぎになっていた。大学側が公認する学生新聞「京都大学新聞社」の記者も、メディア向けの試験問題配布を受け、問題文の出典をネットで検索していて投稿の事実を把握し、ネット上で報道していた。

 京大での一件が発覚した日、同志社大、立教大、早稲田大でも同じ「aicezuki」のハンドルネームで入試問題が投稿されていたことが判明。文部科学省は翌27日、3大学に事実関係を調査して報告するよう求めた。

 京大は一連の行為を「業務妨害」として被害を申告する方針を固めた。一方で京都府警などは捜査を開始。京都府警では業務妨害罪を所管する刑事部に加え、生活安全部のハイテク犯罪対策室も捜査に当たる重厚な態勢をとった。

 「カンニング行為がすぐに罪と認識されるのは驚きだった。全国の注目もあり、試験中の不正が犯罪にあたるのかどうか議論する時間もなく、物事が進んでいったように思える」。ある大学関係者は当時をこう振り返る。

■“異例”の展開

 素早かった京大の対応に戸惑ったのは、大学関係者だけではない。

 「大学側が警察に被害を訴える場合は、調査委員会を設置し、ある程度の結果が出た後の方が多い。いきなり被害を申告するのは珍しい」。捜査関係者は当時こう指摘していた。「試験中に『カンニングされた』という大学側の落ち度も考慮しなければならない。仮に受験生が犯人だった場合、カンニングして受かりたかったというだけでは業務妨害容疑で事件化するのには無理がある」

 こうした声に呼応するかのように、京大には問題発覚後、「監督が甘かったのでは」などの苦情や、徹底調査を求める内容の電話が殺到した。

 “余波”は、事件とは関係なかった他の大学も受けた。多くの大学が試験日程を残しており、試験監督態勢の強化などの対応に追われた。文科省も、試験会場への携帯電話の持ち込みを禁止するよう各大学に求める方針を決めた。

 一方、インターネットの掲示板「2ちゃんねる」やツイッターなどでは、事件の話題が沸騰。「眼鏡などに仕込んだ超小型カメラを使った」「携帯電話のカメラで撮影し、外で待機する人物がその画像を受信して質問サイトに投稿した」などと投稿手法について書き込みが相次いだ。

 また「『aicezuki』は誰?」などの犯人捜しも盛んになり、実名も登場。スパイ映画の主人公が浮かび上がってきそうな刺激的な会話が飛び交ったが、結局はこうした「犯人像」とはかけ離れていたことが判明する。

■単純な手口

 3月3日正午ごろ、仙台市のJR仙台駅構内を、金髪にピアスをつけた男子予備校生(19)が呆然と歩いていた。マスコミ報道で自身が疑われていることを悟り、山形県内の実家の母親と連絡を取らず、住んでいた仙台市内の予備校「河合塾」の寮を飛び出していた。「まさかこんな騒ぎになるとは…」と追いつめられていたとき、目前に数人の人影が現れた。

 京都府警から派遣された捜査員と宮城県警の捜査員だった。予備校生は逃げるそぶりも見せず、ほっとしたような表情を浮かべたという。

 京都府警などは、入試問題をヤフー知恵袋に投稿した携帯電話の契約者が山形県内の女性で、この女性に予備校生の息子がいることを突き止めていた。予備校生は前日の夜から行方不明になり、京都府警などが行方を捜した末に予備校生を発見。京大での入試の公正さを害して職員に長時間事実確認にあたらせるなど業務を妨害したとして、偽計業務妨害容疑で逮捕した。

 京都府警によると、予備校生は、京大だけでなく他の3大学の入試問題投稿についても容疑を認め、「ご迷惑をおかけしまして申し訳ありません」と謝罪した。

 また注目の的だった手口についても、あっさりと供述。監督官に見つからないよう、机の下の股間に携帯電話を隠し、さらに机に体を寄せて周囲から見えないようにした上で、左手で携帯電話を操作し問題を入力し、送信していたという。

 「ふたを開けてみれば、ただのカンニング行為だった…」。捜査員や大学関係者は、あっけに取られたようにこう語った。

■浪人生の苦悩

 「生活が苦しく、母親に迷惑をかけたくなかった。(学費の安い)京大にどうしても合格したかった」。捜査関係者によると、予備校生は、調べに対し動機をこう語った。予備校生は数年前に父親を亡くしていて母子家庭。1月の大学入試センター試験では思うような点がとれず、悩んでいた様子だったという。

 京都府警は、偽計業務妨害容疑で予備校生を送検。京都地検は、偽計業務妨害の非行事実で予備校生を京都家裁へ送致したが、合格したいという動機で単独で行ったカンニング行為とみて悪質性は低いと判断し、予備校生の立ち直りなどを考慮して「保護観察相当」の意見書を付けた。京都家裁は予備校生の出身地を管轄する山形家裁へ移送した。

 3月10日に行われた京大の合格発表で、予備校生が不合格だったことがわかった。予備校生は早稲田大に合格していたが、こちらは取り消されている。

 「私も浪人生だから、気持ちはわかる。でも…」。京大に合格した女子浪人生は、事件について複雑な表情で話し、さらに続けた。「不正は自分の努力を無駄にする行為。試験には正々堂々と臨んでほしい」

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