大学の役割 「知」集め被災地復興に貢献を 『読売新聞』社説2011年5月13日付

『読売新聞』社説2011年5月13日付

大学の役割 「知」集め被災地復興に貢献を

 東日本大震災の影響で始業を延期していた東北地方の大学が、今月から授業を再開した。

 キャンパスに学生たちが帰ってきた。震災で直面した様々な困難を乗り越えて、大学は一刻も早く、活力を取り戻してもらいたい。

 東北や茨城の大学は、地震で建物が損傷したところも多かった。特に理工系の研究設備の被害は深刻だった。大型実験装置が壊れたほか、保存していた遺伝子サンプルなど貴重な資料が使えなくなった研究室もある。

 設備の修繕を急ぎ、研究機能を回復する必要がある。復旧が遅れると、世界の研究開発競争から取り残されるばかりか、優秀な人材の海外流出を招きかねない。

 政府も大学の研究レベルの低下を食い止めるために、必要な予算措置を講じるべきである。

 震災後には、外国人留学生が帰国したり、入学を取りやめたりする動きが目立った。度重なる余震に加え、東京電力福島第一原子力発電所の事故で放射能汚染への不安が高まったことが原因だ。

 大学が電子メールなどで冷静な対応を呼びかけたこともあり、留学生は戻りつつあるようだ。留学生が安心して授業や研究に専念できるよう、政府も大学も迅速で丁寧な情報提供を続けてほしい。

 今、被災地の大学には、それぞれの特色を生かして、復興に貢献することも求められている。

 福島大学の放射線計測チームは、2キロ・メートル四方ごとの放射線の分布状況を調べた。データは地元自治体に提供され、避難対策などに役立っているという。

 宮城教育大学は被災地の教育委員会の要望を踏まえ、学校に教員志望の学生を派遣している。学生たちは教員のサポート役として、放課後の補習などで子どもの勉強の面倒を見ている。

 東北大学は、学部の枠を超えて様々な分野の専門家が協力し、防災や復興のあり方を研究する組織の発足を決めた。他の大学との連携も視野に入れているという。

 あらゆる「知」を集め、災害に強い街づくりや産業再生の具体的なプランをまとめ、政府や自治体に示すことが期待される。

 大学からの提案が実際の復興政策に生かされれば、「産学官協力」の新たなモデルになろう。

 首都圏の大学でも、学生ボランティアを被災地に派遣する動きが見られる。ボランティア活動への参加を単位として認定するなど学生が参加しやすい環境を整え、被災地を継続的に支えたい。

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