『日本経済新聞』2011年4月30日付
国家公務員の給与1割下げ 政府、3000億円を復興に
5月にも主要労組に提示へ
政府は国家公務員の給与を引き下げる方針を固めた。下げ幅は10%前後で調整しており、5月にも主要労組に提示する。実現すれば人件費を約3000億円圧縮できる。公務員給与は人事院の勧告に基づいて決めるのが慣例で、勧告を待たずに労使協議で引き下げるのは戦後の混乱期を除けば例がない。東日本大震災の復興や財政再建に向けた財源確保の一環だが、労組から削減幅を巡り反発が出る可能性もある。
与野党はすでに国会議員歳費の22億円削減で合意しており、政府は28日に国会に提出した第1次補正予算案に盛り込んだ。国家公務員にも過去最大となる10%の引き下げ幅を提示することで、歳出削減を目指す。納税者から増税への理解を得たいとの思惑もある。
労使交渉には政府側から関連省庁の政務官らが出席する。組合側は連合系の公務公共サービス労働組合協議会(公務労協)などが参加する意向だ。
幹部職員と若手職員では給与格差が大きく、一律削減では給与水準の低い若手にしわ寄せが行きかねない。そのため、幹部の削減幅を大きくし、若年職員は下げ幅を抑え、全体で10%程度削減する案を軸に協議する見通しだ。
政府は金融システム不安とデフレで揺れた1999年から人事院勧告に基づいて公務員給与を断続的に減らしてきた。ただ下げ幅は最大でも2%台。人事院の勧告を待たずに平均で10%前後という削減幅を示すことに「削減率に異論はあるが、給与下げはやむを得ない」との受け止めが中央省庁で広がっている。
人事院勧告に法的な拘束力はなく、政府は行政改革が課題だった82年に給与引き上げを求めた勧告の実施を見送ったことがある。今回の引き下げ交渉も震災後の措置として実施する。交渉の妥結を受けて、政府は給与の引き下げを目的とした給与法改正案を今国会に提出。月給が下がるのは法案成立の翌月からとなる。これとは別に、今後は労使交渉で給与を決められるようにする内容を含んだ国家公務員制度改革関連法案も提出する予定だ。
ただ、一部の労組が反発するなど給与引き下げの実現に向けては流動的な要素も残る。民主党は連合系の官公労組を支持基盤に持つが、2009年の衆院選マニフェスト(政権公約)に盛り込んだ人件費2割削減は政権交代後も大きくは進んでいない。10%削減は民主党内の調整が難航する可能性もある。