金沢大、見識疑う情報隠し 処分者の実名を非公表 プライバシー盾 研究内容も 『読売新聞』2011年4月27日付

『読売新聞』2011年4月27日付

金沢大、見識疑う情報隠し
処分者の実名を非公表 プライバシー盾 研究内容も 

 国立大で教員の不祥事が相次ぐ中、金沢大の情報隠しの体質が目立っている。

 研究界のモラルの根幹を揺るがす不正でも、プライバシーなどを盾に実名や研究内容を伏せるなど、身内の保護を優先。有識者からは、大学側の見識を問う声も出ている。(小寺以作)

 金沢大では昨年8月末、教授や准教授3人をアカハラやセクハラ、暴行で、けん責や減給処分にしたと発表した。処分から発表までに2か月以上かかった上、いずれのケースも「被害者が特定される」として具体的な内容を明かさなかった。

 今年3月25日には、40歳代の男性講師が、研究データを捏造(ねつぞう)し、文部科学省の補助金を10年間にわたり不正に取得していたとして、懲戒解雇したと発表。この時は氏名や年齢はおろか、研究内容すらも明らかにしなかった。

 同じ日に会見した香川大は、男性准教授(45)が電車内で乗客に暴行したと発表。年齢や担当科目などを明らかにしている。多くの国立大では、データ捏造や論文盗用を巡る処分では実名を公表しており、金沢大とは“透明度”に大きな開きがある。

 金沢大の情報隠しの姿勢が際立ったのは、男性講師による補助金不正受給についての記者会見だった。実名公表を求める報道陣に対し、桜井勝(しょう)副学長は「本学の公表基準やプライバシーの問題を考えると、氏名までは出せない」とし、研究内容についても「公表すると、データベースから氏名が検索できる」と拒否した。

 国立大の公表基準は各大学が独自に定め、金沢大では「懲戒処分の概要は、個人が識別されないものを基本として公表する」とし、「社会的影響や被処分者の職責を考え、別途の取り扱い(公表)をすることもある」との例外を設けている。

 データ捏造による公金の不正受給という案件にもかかわらず、桜井副学長は「研究者コミュニティーへの影響はあるが、一般社会への影響は低い」と述べ、例外を適用しないと明言。

 講師は、捏造データを複数の学会で発表していたが、「学会の発表が直ちに(一般に)広がることはあり得ない」「学会では、前回の発表に間違いがあっても、次の回に否定しない」とし、研究内容を広く公開して情報を修正する必要はないとの認識を示した。

 一部メディアが、講師の研究内容について、血栓を起こしやすい「抗リン脂質抗体症候群」に関するものと突き止めたが、「抗リン脂質というものはない」として最後まで認めなかった。

 文科省によると、各国立大が公表基準の根拠としているのは、独立行政法人等情報公開法だ。同法では、個人が識別できても、慣行として公にされている情報や、職員の職務遂行の内容にかかわる部分は、開示することになっている。

 情報公開の問題に詳しい杉浦英樹弁護士(日弁連の元情報問題対策委員長)は、「今回のケースでは、研究内容の公表を拒否する理由はなく、実名も公表するのが健全な感覚」とし、「金沢大は、情報公開による不正の是正や再発防止よりも、大学の利益を優先させている」と指摘している。

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