2011 年度政府高等教育関連予算案に関する声明 基盤的経費を中心とする高等教育予算の増額こそが必要 2011 年2 月9 日 全国大学高専教職員組合 中央執行委員会

2011 年2 月9 日

2011 年度政府高等教育関連予算案に関する声明

基盤的経費を中心とする高等教育予算の増額こそが必要

全国大学高専教職員組合 中央執行委員会

政府は、昨年6 月に閣議決定した「財政運営戦略」に基づき、2011 年度予算編成ルールとして、各大臣所管分一律10%減の概算要求枠を設定する一方、「元気な日本復活特別枠」を設け「政策コンテスト」を通じて配分額を決定するとしてきた。

これをふまえ、昨年12 月24 日に閣議決定された政府予算案においては、各省予算の多くが大幅に削減された。その中で、国立大学への運営費交付金の総額については、大学関係者の長年の運動と声も反映され、前年度比0.5%の削減にとどまった。「大学関係主要経費」は、国立大学教育研究特別整備費(58 億円)の新設と科学研究費補助金(科研費)の増額(633 億円)によって、6 年ぶりに増額となった。

とはいえ、この高等教育関連予算案は多くの問題を持つものである。以下に、問題点を指摘しつつ、私たちの要求を掲げる。

国立大学等の教育研究基盤の拡充を要求する

国立大学運営費交付金は、法人化1 期目においては、毎年1%の「効率化係数」と附属病院における「経営改善係数」2%が課せられた。2010 年度予算で、当初の2004 年度と比べ830 億円減となるほど、毎年予算が縮減され、国立大学における教育研究に重大な支障をもたらしてきた。第2 期初年度の2010 年度予算では、附属病院に対する経営改善係数は廃止されたが、「臨時的減額」による削減が行われた。そして、2011 年度では、すべての大学に「大学改革促進係数」(附属病院を有しない法人1%、附属病院を有する法人 1.3%、附属病院運営費交付金の交付を受ける法人1.6%)が課せられた。

これは第1 期の「効率化係数」の復活と言ってよいだろう。この係数によって、基盤的教育研究費に関わる一般運営費交付金は対前年度108 億円を削減(注1)するものとなっている。一方で、使途が制約された特別運営費交付金の予算額は対前年度71 億円の増額となっている。「大学関係主要経費」の増額には科研費の増加分も含まれているが、増額に寄与している「国立大学教育研究特別整備費」(58 億円)も、「カリキュラムや組織の見直しなど、積極的に大学改革を推進している大学の教育研究環境の整備を支援」するための予算とされており、基盤的ではなく、競争的、財政誘導的な経費と見て取ることができる。

従来から私たちは、短期的な成果を追い求める、いきすぎた競争と集中は、基礎科学を枯渇させ、広い視野を持つ人材養成になじまないとの立場から、基盤的教育研究費の拡充を求めてきた。法人化後の大学における基盤的研究の危機については、文部科学省でさえも、2010 年7 月の『国立大学法人化後の現状と課題について(中間まとめ)』の中で、「国立大学の学術研究論文数」が「平成18 年度以降は減少傾向に転じるなど、研究面に陰りが出始めて」おり、「国立大学が担うボトムアップ型の基礎研究の長期的な衰退を招きかねないことに留意しなければならない」と述べている。

2011 年度予算案での一般運営費交付金の減額と、特別運営費交付金への傾斜は、これまでそれぞれの地域において高等教育をささえてきた地方大学や存立基盤の弱い単科大学等の存続そのものを危機的な状況に陥れ、大学間の格差をむやみに拡大するものである。また、国立高等専門学校への24 億円減(対前年度)もまた、高専の教育研究を危うくするものである。

国立大学運営費交付金についての一般運営費交付金の増額と、国立高等専門学校に対しての十分な公財政支出を求める。

(注1:一般運営費交付金の額は対前年度比50 億円減とされているが、これには新規組織整備への対応、授業料免除枠の拡大等に伴う増額が含まれており、基盤的経費そのものは108 億円減である。)

高等教育の無償化を視野に入れた学費の引き下げ、奨学金制度の抜本的改善を求める

2011 年度政府予算案では、授業料免除枠は、学部・修士 2 千人増(対前年度比7.3%増)の3 万6 千人、博士 3 千人増(同12.5%増)の6 千人、奨学金は、無利子が9 千人増の35 万8 千人、有利子が7 万9 千人増の91 万4 千人と増額されている。

しかし日本では、高等教育への公的財政支出がなお少ないために、私立大学はもとより、国公立大学も過度の私費負担に依存している。こうした状況は、経済的理由によって大学等への進学をあきらめるといったことを引き起こし、高等教育を受ける権利を奪うとともに、進学者に対しても重い家計負担を強いるものとなっている。

政府に対して、国際人権A 規約13 条の高等教育無償化条項の留保を撤回し、高等教育の無償化を視野に入れた学費の引き下げ及び給付制の導入等の奨学金制度の抜本的改善を求める。

政府・文科省主導の国立大学の機能別分化には重大な危惧

2011 年度政府予算案決定の過程で、財務省によれば、財務省と文科省との間で「大学における機能別分化など大学改革を強力に進める方策を、1年以内をめどに検討し、打ち出すこと」が合意された。そうした中で、国大協は昨年12 月27 日、「国立大学の機能強化に関する委員会(仮称)」を設置し、本年6 月までに中間まとめを公表するとしている。

各大学法人が自主・自律的にその機能を検討し、大学の方向性について学内合意をもとに定めていくことは否定されるべきではないが、政府・文科省の主導で、改革を押しつけることは法人化の趣旨にも反する、国家への高等教育の従属化を招くものである。高等教育界全体として国民との対話にもとづいた将来の高等教育像を模索するとともに、それを基盤としながら各大学の自治にもとづいた大学の改革が進められるべきである。

中・長期的視野に立ち高等教育全体を見通した充実計画の策定を

2011 年度予算案では、私立大学等経常費補助が13 億円減額(対前年度)とされている。また、私立大学に対する授業料減免枠や奨学金の措置も教育面での国立大学との格差を拡大するものとなっている。

公立大学に対する国からの公財政支出は交付金の形をとり、従来から国の予算案の中では見えづらく、各自治体における高等教育の位置づけに委ねられており、一括交付金化の議論の中で、今後ますますその基盤が危うくなるおそれがある。

2012 年度以降の高等教育予算は、2011 年度より一層厳しいものになると言われている。しかし、資源に乏しい日本においては、大学をはじめとする高等教育は、将来を支える多様な人材の育成と研究を通じた社会の持続的発展への寄与のために重大な役割を果たしている。そしてなによりも、高等教育を受ける希望と能力のある国民に、その機会を開くために、国・公・私立という設置形態を超えた高等教育全体の充実・発展が必要である。政府に対して、それを保証する中・長期的視野に立った公財政支出計画を早急に策定することを強く求める。

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