大学関係予算にひそむ罠 ― 2011年度政府予算案を批判する 2010年12月26日 国立大学法人法反対首都圏ネットワーク事務局

大学関係予算にひそむ罠 ― 2011年度政府予算案を批判する

2010年12月26日  国立大学法人法反対首都圏ネットワーク事務局

12月24日に来年度予算の政府案が閣議決定された(http://www.mof.go.jp/seifuan23/yosan.htm  )。大学関係予算については、国立大学運営費交付金の削減率が0.94%から0.5%と減少したことや、授業料免除枠の拡大、科学研究費補助金の増額と基金化など多くの大学人の要望した事項が取り入れられたこともあり、一部には安堵する雰囲気も広がっている。また、文科省も予算案だけでなく「大学関係者の皆様に」「若手研究者の皆様に」というような対象者別の解説をいち早くHPに掲載し、政策コンテストの結果を表に出して成果をアピールしている( http://www.mext.go.jp/a_menu/yosan/h23/1297177.htm )。このような大学関係予算案には、ノーベル賞受賞・はやぶさ帰還などの話題が注目を集めたことに加え、この間の大学人の強い働きかけが功を奏したことは確かであろう。

しかしながら、内実を見ていくと金額の減少が予想よりも少なかったと言って決して安心できるようなものではない。財務省のHPに掲載されている「平成23年度文教・科学技術予算のポイント」という神田主計官名の資料( http://www.mof.go.jp/seifuan23/yosan009.pdf )の37ページには、「大学改革について」と題する以下のような財務省と文部科学省の合意が掲載されている。ところが、この合意は、文部科学省のHPには示されていないという代物なのである。

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時代の要請に応える人材育成及び限られた資源を効率的に活用し、全体として質の高い教育を実施するため、大学における機能別分化・連携の推進、教育の質保証、組織の見直しを含めた大学改革を強力に進めることとし、そのための方策を1年以内を目途として検討し、打ち出すこと。
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これは、機能別分化や組織見直しなどの大学改革を来年度から民主党政権の唱える『新成長戦略』に適合するように半ば強権的に進めることを示している。そこには、基礎的な学問研究の自律的発展の見地も各大学の自由な創造的努力の尊重も全く考慮されていない。改革の対象が国立大学に限定されていないことにも注意すべきだろう。

実は、財務省―文科省合意に呼応するように、総務省の政策評価・独立行政法人評価委員会は12月22日付の「平成21年度における国立大学法人及び大学共同利用機関法人の業務の実績に関する評価の結果についての意見」において、以下のように指摘している( http://www.soumu.go.jp/main_content/000096038.pdf ).

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国立大学法人等は、第2期中期目標期間において、特に、国立大学法人にあっては、機能別分化を、大学共同利用機関法人にあっては、一体的運営を進めるものとされており、それを実現するためには、各法人において、明確なミッションを掲げ、学長等のリーダーシップの下、役員会、教育研究評議会、経営協議会を始めとした法人内の各組織がそれぞれ求められる役割を果たし、目標に向けて、法人全体として機能することが重要である。

このため、今後、国立大学法人等の評価においても、このような視点に立った評価が必要となってくるので、独立行政法人(注)や民間における内部統制も参考にしつつ、評価に取り組むことが期待される。
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ここで示されている独立行政法人の内部統制は「中期目標に基づき法令等を遵守しつつ業務を行い、独立行政法人のミッションを有効かつ効率的に果たすため、法人の長が法人の組織内に整備・運用する仕組み」をさしている。総務省の文書「独立行政法人における内部統制と評価について」( http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/26834.html)で述べられ、独立行政法人の評価にもすでに取り入れられている手法である。

実は、今回の予算案の裏で、国立大学法人法すら踏みにじって機能別分化をはじめとする大学「改革」を政府主導で進める仕掛けが用意されていることに注意しなければならない。すでに昨年秋の第二期中期目標策定において、文部科学省は第二期中期目標期間を大学の「機能別分化」を促進する時期として位置付けているのであるが、今回の予算案により、それが早まる可能性が高まっている。同時に、国立大学法人運営費交付金は、各大学の研究・教育等の基盤を支えるためのものから、財務当局が大学「改革」に介入する理屈づけのための予算へと、変質を遂げつつある。ここに、今回の予算案のきわめて危険かつ違法な性質が露呈されている。予算額の大小のみに目を奪われていてはならない。

参考までに、本事務局の「国立大学協会第18回通常総会への要望書」(2010年3月2日付、http://www.shutoken-net.jp/archive-200912/2010/03/100302_1jimukyoku.html )の関連部分を再掲する。われわれは、かかる視点から、今回の政府予算案についても、さらなる分析をすすめていく予定である。

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2.「国立大学法人法(独立行政法人通則法)による法人化」自体の検証を行うこと

 この間の中期目標策定の過程は、国立大学法人に実質的な中期目標の原案策定権を与えている国立大学法人法(第30条3)すら踏みにじるものであった。文部科学省が第2期中期目標期間を大学の「機能別分化」を促進する期間にすると位置付ける中、130頁に及ぶ原案の書き換えが行われたという事実は、第1期中期目標の原案の書き換えがわずか数ページであったことを思えば、国立大学法人の中期目標に対する文部科学省の権力的統制が質・量とも驚くべき強化・拡大を遂げたことを如実に示している。

 新政権の下で行われた昨2009年の「事業仕分け」は、運営費交付金の削減のみならず、「国立大学のあり方を含めて見直しを行う」とした。12月25日には、「全ての独立行政法人の全ての事務・事業について、聖域無く厳格な見直し」「見直しの結果、独立行政法人の廃止、民営化、移管等を行う」ことが閣議決定された(「独立行政法人の抜本的な見直しについて」)。この方針を受けて、国立大学法人評価委員会はさっそく、「国立大学法人化の検証」に着手することを決めた(2010年1月20日、第32回総会)。しかしながら、この間、大学評価機関としての独立性を完全に喪失し、文部科学省の“分身”としての行動に終始する国立大学法人評価委員会にまっとうな検証作業を期待することはできない。せいぜい、「法人化により予算の使途や組織編成の自由度が高まったにもかかわらず、運営費交付金の削減など財政上の問題からそれらメリットを十分発揮できていない」といった作文を書く程度のことが関の山だと思われる。

 われわれもまた、国立大学法人化の根本的な検証が必要だと考える。ただし、それは国立大学法人法(独立行政法人通則法の準用部を含む)の下で行われてきた政府の違法行為、国会附帯決議違反、国会答弁や評価委員会の決定を無視する不誠実な対応の数々を含めて、国立大学法人化自体の是非を問い直す作業が必要だと考える。この作業を行うことは国立大学が国民に対して果たすべき責任である。

 本事務局は、本総会に対して、国立大学協会として、「国立大学法人法(独立行政法人通則法)による法人化」自体の検証を行うことを要望する。検証に際しては、特に以下の二点に留意することを併せて要望する。

 1)憲法、および国立大学法人法制定過程における国会附帯決議および政府答弁、国立大学法人法、国立大学法人評価委員会の諸決定等に違反する行為がないかも含めて、実証的・総合的に行うこと

 2)国立大学法人の一般教職員(非正規雇用者も含める)や学生等、大学構成員の意見も反映させること
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以上

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