高浜の医療再生へ地域一体 医学部講座“誘致”、啓発『福井新聞』2011年1月23日付

『福井新聞』2011年1月23日付

高浜の医療再生へ地域一体 医学部講座“誘致”、啓発
 

 福井県高浜町で地域医療再生に向けた取り組みが本格化している。同町では2009年4月、町の支援を受けた福井大医学部が寄付講座を開設。以降、同町を訪れる若手医師が増加し、医療教育の土壌が育ってきた。住民有志によるサポーター制度も機能しており、10年からは住民啓発の地域医療フォーラムを町と共催。住民、行政、医療従事者が一体となった地域医療推進の現場を紹介する。(小浜支社・野田勉)

■崩壊の危機に直面

 同町は、2000年に3医療機関で計13人いた医師が、07年に6人まで減少、医療崩壊の危機に直面した。04年度の研修医自身が研修場所を選ぶ制度導入後、都市部志向の影響で研修医が減り、町と若手医師の接点が薄れたことなどが理由とみられる。同町の地域医療の課題はいくつかあるが、とりわけ医師不足の解消は急務となった。

 こうした中、08年8月、学識経験者らによるワーキンググループ(WG)が発足した。WGの答申を受け、町は09年度から3年間で計6500万円を福井大医学部に寄付。同学部は社会保険高浜病院と国民健康保険和田診療所に研究室を設け、寄付講座を開設した。

 講座は、同学部教官らが講師となり医学生や研修医を受け入れ、臨床実習や地域医療研修を行う。町にとっては、研修医らが町内に来ることで不足する常勤医師をカバーし、これら若手医師が将来、同町を勤務先に選ぶことも期待できる。

■教育へ投資、好循環

 和田診療所で実習や研修を行う医学生や研修医の数は08年度48人だったが、寄付講座が開設された09年度は71人、10年度84人と急増。ここ数年、受け入れがほとんどなかった高浜病院でも10年度は5人、11年度は10人以上を予定している。

 寄付講座の責任者で同大救急総合診療部の寺澤秀一教授(58)は「高浜の医療機関にベテラン医師、研修医、医学生が集まり、後継者が育つ環境となった。教育への投資によって好循環が生まれた例は全国でも珍しい」と手応えを感じている。

 同講座助教を兼ねる同診療所の井階友貴所長(30)も「医師は自分を高められる環境に集まるもの。高浜は医学教育の土壌ができつつある証し」と指摘。「今後も『医師に選ばれる町』を目指し、一人でも多く医師を地元に残すことが地域医療再生の必須条件」と強調する。現在町内の医師数は9人。取り組みの効果は表れ始めている。

■「地域が守る」

 寄付講座の開設当初、住民の中には研修医による診療に不安を漏らす声も一部あったという。医学教育を継続して進めるには、住民理解は欠かせない。町は住民に医療の現状や課題を伝える第1回の地域医療フォーラムを09年7月に実施した。

 このフォーラムを機に町民有志15人が「地域医療サポーター」を結成した。メンバーは26人に増え、10年度から本格的に活動。年2回の同フォーラムの企画・進行や、町内の医療者との交流会の開催、住民啓発ビデオの制作などに取り組んでいる。同サポーターの今井宗雄代表(59)は「『高浜の医師は地域が育て、地域が守る』を合言葉に住民啓発を進め、住民、行政、医療の懸け橋を目指したい」と意気込む。

 住民、行政、医療の協力で、高浜の地域医療再生の歯車は今、がっちりかみ合っているといえる。WG答申を引き継ぐ形で昨年11月には、町の地域医療推進合同会議の最終報告書が野瀬豊町長に提出された。これを基に課題に幅広く取り組むことになっている。今後もこうした機運が継続していくことが望まれる。

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