大卒内定率68.8% 大寒波で春が見えない『毎日新聞』社説2011年1月19日付

『毎日新聞』社説2011年1月19日付

大卒内定率68.8% 大寒波で春が見えない

 東京・神田のすし店が求人を出したところ4年制大学の学生が何人も面接にやってきたという。「あんたらが働くところじゃないよと断ったが、こんなことは初めてだ」と店主は驚いていた。

 新卒者の就職難は今年に始まったわけではない。しかし、今春卒業見込みの大学生の就職内定率は68.8%、短大生は45.3%(いずれも昨年12月1日現在)。データが残る96年以降で最低という。企業業績の回復が伝えられる中、凍りつくような就活戦線である。

 菅政権もさまざまな対策は取ってきた。キャリアカウンセラー増員による就職支援の強化、就業力を向上させるための支援プログラムの充実、雇用意欲の高い中小企業と新卒者とのミスマッチ解消などである。だが、まだ十分な成果を上げているとは言い難い。

 技術革新によってさまざまな仕事がコンピューターに置き換わり、オフィス内労働では以前ほど人手が要らなくなった。製造業は途上国へと拠点が移りつつあり、単純労働でも働く場が少なくなっている。雇用のパイが全体的に縮小していることが新卒者への門を狭めている大きな原因だ。若年者雇用に苦戦しているのは日本に限ったことではない。ただ、わが国では正規労働者に対する解雇規制が厳しく、人件費を抑制するために新規採用を抑えてきたことも指摘しておきたい。中国など外国人留学生を採用する企業が増え、ますます日本人学生が苦戦を強いられているとも聞くようになった。

 菅直人首相は11年度税制改正で法人税の実効税率5%引き下げを決めた際、「雇用を守り経済成長をさせていくための法人税減税だ。働く皆さんにも分配されることを経済界としてぜひ約束をしていただきたい」と日本経団連の米倉弘昌会長らに求めた。米倉会長は「約束というわけにはいかないが、法人税が下がれば企業の競争力が高まる。雇用も増えていく」と言うにとどまった。

 業績回復で内部留保を増やしている企業もある。新卒者採用にもっと積極的に取り組むべき時ではないのか。財政再建や社会保障の立て直しのため国民負担増が避けられない情勢の中、あえて法人税を下げる社会的意味を重く受け止めてほしい。

 こうした時代に巡り合わせた不運を恨む学生もいるだろう。ただ、名の知れた大企業だけでなく中小企業にも将来性のある会社はある。10年後にどの会社が伸びているかわからないではないか。自らの力で会社を発展させる気概があってもいい。

 就職した後も若者が自分を磨き再チャレンジできるような雇用制度の柔軟性も高めるべきだ。

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