[社説]’11 脱・漂流 就職氷河期再来 若者たちに夢と希望を『山陽新聞』社説 2011年1月5日付

『山陽新聞』社説 2011年1月5日付

[社説]’11 脱・漂流 就職氷河期再来 若者たちに夢と希望を

 就職活動は既に1年以上、50社以上応募したのに内定がない大学4年生。始まったばかりの就活というのに、出口の見えないトンネルの中にいるような不安でいっぱいの大学3年生―。

 昨年末、本紙第2社会面に掲載した連載企画「就職難 もがく若者」は、厳しい就職戦線にあえぐ大学生の深刻な実態を浮き彫りにした。

 今春卒業予定の岡山県内の大学生の就職内定率は昨年11月末現在、50・9%と調査を始めた1992年度以降、2番目に低かった。全国は10月1日時点で57・6%と過去最低だ。2008年秋のリーマン・ショックによる雇用不安は、90年代末から00年代初めにかけての「就職氷河期」の再来と呼ばれる。

 社会に出るための試練とはいえ、大学3年の秋ごろからという長期間の就活は学業に与える影響も少なくない。現状は学生への負担が大きすぎるといえよう。

見えない展望

 リーマン・ショックから2年余りがたち、日銀の金融緩和策と政府の緊急経済対策などで企業収益は持ち直してきた。だが、雇用環境は依然として好転しない。世界同時不況をリストラで乗り切った企業が、正社員の採用を手控える傾向が強いからだ。

 さらに、昨年後半からは円高や欧米経済の先行きなどの懸念要因が加わり、国内ではエコカー補助金制度の打ち切りなどで個人消費の減速も見込まれている。

 共同通信社が主要企業110社を対象に実施したアンケートで、景気の現状を「横ばい」とする回答が84社に上った。今後の見通しについても75社が「横ばい」と答えている。景気の先行きに不安感がぬぐえず、雇用の拡大や賃上げには及び腰だ。

 雇用にとって強い逆風になりそうなのが企業の円高対策だ。アンケートの回答では「経費削減で影響を吸収」「原材料の海外調達を拡大」といった一層のコスト削減策が多く、「生産拠点の海外移転を推進」も目立った。

 これでは氷河期から抜け出せるのはいつのことか。展望は全く見えてこない。

目玉予算

 雇用対策は、民主党が初めて本格的に手掛けた11年度予算案の基本方針の一つだ。「一に雇用、二に雇用、三に雇用」を掲げた菅政権としては当然の取り組みである。

 新卒者らを対象とする就職支援対策費は、10年度当初よりほぼ倍増の110億円を計上した。ハローワークでの相談体制などを強化する。今年秋を期限とする求職者支援制度の恒久化を図る。無料の職業訓練の間、月10万円の生活費も支給する。

 企業向けには、非正規社員の正社員への転換などへの対策費や、従業員を増やした企業への法人税軽減策なども設けた。

 政策効果は未知数という指摘もあるが、手をこまぬいている場合ではない。政策の浸透を図り、実効あるものにしていかなければならない。

 ただ、気掛かりなのは予算が年度内に成立するかどうかだ。野党が参院の過半数を握る「ねじれ国会」だけに波乱含みといえよう。菅直人首相は政権基盤を固めて論戦に臨まなければならない。

非正規の待遇改善

 政府は、パートや契約社員など雇用期間を決めて働く有期契約労働者の待遇改善に向けた新たなルール作りを進めている。非正規雇用が増える中、不安定な雇用形態や正規との賃金格差が問題になってきたからだ。

 労働市場の規制強化に企業側の反発は強いようだが、リーマン・ショック後の「派遣切り」が続発するような事態を再び招いてはなるまい。

 不安定な雇用や低所得者の増加は内需拡大を妨げ、経済成長を低迷させる。生活保護や雇用保険などの増大にもつながり、財政を圧迫する。ひいては社会全体に沈滞ムードが漂い、企業の活力も失われることになろう。

 安定した雇用環境づくりに向けて行政、企業、労働界が一体で取り組むことが重要だ。若者たちの夢や希望を失わせてはいけない。

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